福島県教育センター所報ふくしま No.64(S58/1983.12) -015/042page
受講者の感想
音楽講座を受講して
県立福島高等学校教諭 高 麗 正 宣
昨年のいつ頃だったろうか,教育センターの音楽担当所員の方から「今年の音楽講座では,講師とし桐朋音楽大学学長 三善晃先生と,東京芸術大学名誉教授 畑中良輔先生がお見えになる,」と聞いた時私は,わが耳を疑った。三善晃氏といえば,日本が世界に誇る作曲家であり,私たち音楽人にとって神様的な存在でもあるからだ。一方畑中良輔氏も,我が国声楽(合唱も含む)教育の大御所であり又,音楽評論家としての活躍もめぎましい人である。そういった二人の偉大な音楽家が時間をさいて,私たち高等学校音楽講座受講者のために,福島までおいでいただけるなどということは,考えられなかったからである。私は迷わず参加を申し込み,その日が来るのを,心待ちにしたのであった。
さて,いよいよ講座が始まった。まず三善晃氏の講義である。先生は,音楽教育に対する考え方や作曲理念など,かなりの高次元でお話しされた。内容については,大きく共感するところがあったり,又難かしく理解出来ないところがあったり(私の国語力の不足)なかなか大変だったが,感覚として理解出来たことは,大きな収穫だった。又,私たちのいろいろな質問にも丁寧に答えて下さり,本当に有意義で感動的な一日であった。
次の日は,畑中良輔氏の発声法とドイツ語発音の実習である。事前に「一人1曲歌ってもらうので必ず準備してくるように」との指示があったが,私は歌は昔から大の苦手で,大学卒業以来20年間,宴席やカラオケはもちろんのこと,人前ではただの一度も歌ったことがないので,歌わされるというこの時間は,私にとってまさに死を(?)意味するものであった。限られた時間なので譲り合いの精神を発揮し,若い先生方にどんどん歌ってもらい,私はただひたすら畑中先生と視線が合わないように,下を向いておとなしくしていた。しかし,受講生が15人と少人数なこともあって,不幸なことに先生と目が合ってしまった。「アッ!」と思った瞬間,「高麗さん,やってごらんなさい」(先生は,全日本合唱コンクール全国大会の審査員なので,私の名前を覚えていてくださった)目の前がまっ暗になる。こうなったら仕方がない。立ち上って「アーアーアー」「オーオーオー」と発声のレッスンが始まった。二言,三言,注意されたが,周りの好奇な目と,恐怖心と恥かしさで,何を注意されたか,よくおぼえていない。でも若い先生方の自信に満ちあふれた目だけは,良くおぼえている。
ようやく恐怖の時間も過ぎ去り,次はドイツ語発音のレッスンだ。ドイツ語は私たち合唱を指導している者にとっては,必ずやらなければならないので,ある程度は勉強していたが,それでも自信がないところがかなりあり,その辺のところを,ご指導いただき,又,いままでの知識を再確認をすることが出来て本当に嬉しく,まさに天国と地獄のような1日であった。
次は,教育センター所員の方による生徒指導のお話である。正直いって「あー,又…」と思っていたが,その予想は,見事に裏切られ(?!)実に素晴しいの一言につきた。深い内容,説得力,ひきずりこまれるような魅力……,一体それはなんだろう。先生のお人柄,話術の巧みさもさることながら,やはり“実践”された上でのお話しであったために私たちは深く感動したのだと思う。やはり教育は,「人」と「実践」ということを,無言のうちに教えられ,先生を教師としての鏡と感じたのは,私だけではなかったと思う。
3泊4日の音楽講座も夢のように過ぎ去り,自分が教師としても,音楽人としても,ひとまわり大きく成長したような充実した気持ちで,教育センターを後にした。
最後に,この20年間で最高の講師陣を招いて下さった教育センター及び音楽担当所員の方の高い見識に感謝したいと思う。
○高等学校音楽講座(講師、三善晃先生)