福島県教育センター所報ふくしま No.66(S59/1984.6) -003/038page
ばならない。旧態依然の教育方法によっては教育の改新は遂げられない。しからば,改新を志向するこれからの教育をどう捉えるべきであろうか。2.これからの教育を考察する視点
これからの教育を考える上で,第13期中央教育審議会教育内容等小委員会の審議経過報告は,今日最も重要な資料の1つであろう。
この報告は,現行教育の問題点をほぼ過不足なく表現しているし,今後の検討課題として教育の病状を広範に,ほぼ的確に診断していると批している向きがある。(例えば,黒羽亮一,教育改革・私見,引道第505号)現場では既に検討ずみのことと考えられるが,この報告の中の「今後特に重視されなければならない視点」に焦点をおいて考察をすすめることとする。 報告では,
(1)「自己教育力」の育成
(2)基礎基本の徹底
(3)個性と創造性の伸長
(4)文化と伝統の尊重
を,今後特に重視しなければならないとしている。この提唱は,教育課程の基準の改善のねらいとしてあげられた3つのねらいを今後とも教育の現場において達成していくことを強く望みながら,社会の変化に対応し,児童生徒の発達状況を考慮し,長期的展望に立って,学校教育の改善を図る必要を充足するという立場に立つものであって,これからの教育実践の重点的指標となると考える。しかもこれは,教育課程の基準の改善のねらいを徹底充実する線上にあると見ることができる。したがって両者の意味的関連をあやまりなくとらえ,具体的実践を工夫し,実効をあげる努力をしなければならないと思う。ところで,この4つの視点は,相互に関連し合っているのであって,どの視点も他の3つの視点と相関するととらえるべきで,実践に当たってつねに留意しなければならないことである。
さて,各視点は,それぞれどのような内容であるかは,報告をくりかえし吟味することで,理解を深めなければならないのは言うまでもないが,いくつか気にかかることがある。
(1)自己教育力の育成では,どのような自己に自己を教育するのかが大事であること。
(2)基礎・基本については,知・技・態・健のすべてにわたるのであること。
(3)個性と創造力の伸長では,その方向があやまられてはならないこと。特に個性は他との単なる差異性にあるのではないこと。
(4)文化と伝統の尊重では,報告に述べられてあるが,国際性の育成と相まつべきであること。
など決して軽視されてはならないと考える。以上のような考えをふまえて,各視点にかかわる学習指導のあり方の基本的なものを検討してみよう。3.各視点にかかわる学習指導のあり方
(1)自己教育力の育成にかかわる学習指導のあり方
報告において提示されている自己教育力の定義や着眼等を,日常の学習指導で絶えず配慮し,その精神を実現することに努めるべきであるが,特につぎの各項を充足する必要がある。上記各項は,各自の学習意欲を生涯かけて持続する基盤形成に寄与するはずである。
- 学習の意味の自覚に導くこと。このことを,自己形成の価値志向実現につながるようにすること。
- 考え方,しらべ方,わかり方等学習の仕方を習得させるようにすること。たとえば,あることをわからせるだけでなく,どういうやり方でわかったかをはっきり意識させ,わかり方をわかるように導くこと。わかり方をわかって,そのやり方を自ら適用する場をもつように配慮すること。
- ひとりひとりに効力感が湧くように援助し,ひとりひとりが,自分なりに自己形成に対して自信が持てるようにすること。(効力感の問題については,所報No.61の拙論を参照ありたい。)
- 自己評価の能力を正しく発動させうるように導くこと。(児童心理441,442,速水敏彦,−自己学習のための自己評価−がよい手引をあたえると思う)
(2)基礎・基本の徹底にかかわる学習指導のあり方
報告に述べられてある内容をふまえながら,特に,なお,報告において,社会の変化に対応することは必要ではあるが,子供の発達段階を考慮し,これに過剰に反応することは厳に戒めなければならない
- 教育内容の精選を徹底的に図り,基礎・基本を明確にとらえること。
- 児童生徒のひとりひとりの実態に即して,よくわかることを成し遂げさせ,反復練習適用の学習状況をつくり出すこと。
- フィードバックやたしかめを各自が行うことができ,それらを十分に援助することを可能にする教育課程の編成や授業計画による学習指導を行うこと。等を実現充足する必要がある。