福島県教育センター所報ふくしま No.67(S59/1984.8) -008/038page
教科外教育
道徳の授業を支える資料とその活用
−副読本を中心に−
経営研究部 渡 部 悦 夫
1. はじめに
「道徳の授業の資料として副読本を使っているが,ただ読ませることだけに終始しがちで,児童は,あまり興味を示さない。」
「副読本の読み物を生徒が理解しにくいため,説教がましく,おしつけ型の授業になってしまう。」
講座で,道徳の授業について話し合った時,資料としての副読本に関して,このような反省や質問が多く出された。これは,道徳の授業において,読み物資料である副読本の果たす役割が大きいことは知っていても,その取り扱いが難しいためと思われる。
そこで,副読本の活用などについて述べてみたい。2.道徳の授業における資料の使用状況と問題点
(1)使用状況
講座受講などで来所された県内各地の先生方に依頼したアンケート調査で,道徳の授業に使用されている資料は,小・中学校とも,読み物資料がはとんどを占め,中でも「副読本」が97.9%と圧倒的に多いという結果を得た。
また,副読本に次ぐ資料としては,小学校が,テレビ番組,スライドフイルム,市販TPであり,中学校では,テレビ番組,録音テープ,スライドフイルムであるが,いずれも量的にはごくわずかにすぎないことがわかった。(2)問題点
近年,道徳教育,とりわけ,道徳の授業の充実が叫ばれながら,思うように進展が見られないという反省がくり返し出されているようである。
この理由としては,道徳の授業に対する教師の構えや,児童生徒の取り組みの姿勢など,多くのことが考えられるが,副読本一辺倒の安易な使用にかかわる問題が大きなウエイトを占めているように思えてならない。
すなわち,読み物資料とくに副読本の特質をよくとらえ,活用のしかたを十分に吟味,工夫して授業に臨まないと,平板的で深まりの見られない授業展開となってしまい,児童生徒の道徳の授業への意欲を低下させる原因の1つになりやすいからである。3.副読本の特質
現在,道徳の授業をすすめていく上で,問題が多いからといって,副読本を全く使用しないということは不可能に近いとさえいえる。
むしろ,副読本には,次のような長所や短所があることをふまえ,資料として十分に生かし,効果を得るよう心がけなければならないであろう。(1)長所
すぐれた読み物は,それを読んだ児童生徒に,感銘を与え,豊かな心情や正しい判断力を養うのに役立つと共に,経験を拡大し,さまざまな場面に応じた行為や考え方をとらえさせたり,道徳的な価値を体得させるのに大きなはたらきをする。
また,次のような点でもすぐれている。
- 道徳の時間の指導用に編集されたものであり,適切なものが多い。
- 道徳的心情,判断力,態度を育てる内容が偏りなく取り入れられている。
- 識見を持った学者や教師が,吟味し選択したもので,人間としてのあるべき姿を十分考えさせることのできる読み物が多い。
- 学習指導要領に準拠しており,公正かつ,中正な内容である。
- 児童生徒の発達段階に応じた表現になっている。
(2)短所
道徳の授業の資料の中で,副読本ほど取り扱いが簡単なものはないと考えられがちだが,次のような落とし穴があることを十分に考慮してかからないとマイナス面だけが大きく影響することになるので注意しなければならない。
- 単に読ませるだけの指導になりやすい。
- 知的理解中心,教師注入型となりやすい。
- 利用形態が単一的になりやすい。
- 地域や児童生徒の実態に合致しない場合が生じやすい。
- 読ませることに時間がかかりすぎ,考えを深め合う時間が不足しやすい。