福島県教育センター所報ふくしま No.67(S59/1984.8) -013/038page
(1)秘密保持とその指導上の問題
養護教諭が生徒指導への積極的な取り組みをもち,生徒を深く理解すればするほど知り得た内容をどうするかが問題になる。
例えば,新入生のオリエンテーションや日常の保健室利用などの指導の際に次のような指導が行われることがある。保健室は「治療するところ」であって「処罰するところ」ではないから保健室にきたときは,どんなことでもほんとうのことをいってはしい,そうでないと「正しい治療や処置ができないから」というような指導がなされる。これは,養護教諭の職務の性格上当然のことともいえる。
このような指導の下で,生徒は本音を出して養護教諭との触れ合いを深め,その過程で養護教諭は生徒の真の姿を理解することができるのである。
その内容が,あるときは生徒指導部に知らせなければならないものもある。しかし,生徒指導部に出せば当然謹慎などの特別指導が課せられ,秘密保持の原則,いわば前述の指導内容を養護教諭自身が破ることになるという考えから,かかえこんでしまう場合もある。また,秘密保持を原則にしたために指導が手遅れになってしまったということも考えられる。したがって,生徒指導部に知らせる場合の生徒への配慮として欠くことのできないことは,重大な問題であればあるはど,この問題は養護教諭一人で解決のできない問題であることを生徒に十分に理解させ,納得させると同時に生徒との信頼関係をより密接に保つように心がけなければならない。
更に,この問題を知らされた生徒指導部はもとより,全職員がこれらの問題を協議する際に,従来からの指導の方針であるからとか,形式的な指導方針に固執することなく,秘密は秘密として全職員共有のものとして対処することが大切である。
また,秩序維持ということから考えれば画一的な指導も大切ではあるが,今こそ個に応じた個別指導がより重要な時期にきているともいえる。
また,この指導で大切なことは,生徒のよせた養護教諭への信頼を断ち切らないようにしなければならないということである。そうでないと,生徒は心を閉ざし,その後の保健相談は失敗に終わることが懸念されるからである。(2)他教師との人間関係の問題
生徒指導が円滑に進むかどうかは教師間の人間関係にもあるのではないかと考えられる。このことから次の事例を通して考えてみたい。● ホームルーム担任に叱られた養護教諭
高校2年A男の母親が保健室を訪ね,次のことを養護教諭に伝え,相談を求めた。それは,子供が体の不調のため医者の診断を受けた結果心臓が悪いとのことから,学校生活にも関係するので養護の先生にこの事実を説明するよう指示され来校したものであった。このことを担任に伝えたところ「病気のこととはいえ私に連絡しないで養護教諭が対応するのは非常識だ」,「養護教諭は出すぎている」という趣旨の叱りをうけたという事例である。この事例からも明らかなように,養護教諭にとって当然の任務として対処しても,越権行為だとか,余計な口出しというような閉鎖的な姿勢が望ましい連携を阻害している原因ともいえる。
生徒指導という共通の基盤にたった指導を推進するためには個人的な感情や体面にこだわらず,相互に密接な連携をとっていくことのできる雰囲気や人間関係の充実が図られなければならない。4.養護教諭に期待する生徒指導の役割
近年増加傾向にある生徒の問題行動に対し,対象療法的指導もさけて通れないのも事実であるが,教育相談とともに,養護教諭の行うカウンセリング的な生徒への対応やその治療が今こそ必要な時期にきていると考えられる。したがって,校内の組識や係分担の枠にとらわれることなく,広い視野での生徒指導へのかかわりを更に深めることによって充実した生徒指導の推進が図られるであろう。それだ桝こ養護教諭によせる期待は大なるものがある。
5.おわりに
保健室は いわば,その学校の生徒集団が抱える諸問題が凝縮した形で現れるところであり,保健室にみられる諸現象の背後には多くの生徒の類似した生徒指導上の問題が潜在しているものと考えられる。
したがって,養護教諭の生徒指導へのかかわりとその対応は欠くことのできない指導上の大切な役割の一つである。ここに,教師間の相互信頼,共通理解に基づいた養護教諭との密接な連携が必要とされるのである。