福島県教育センター所報ふくしま No.67(S59/1984.8) -020/038page
を育てることの苦労に気付いた子どもたちは,これまで何気なく見過ごしてきた周囲の自然の様子に目を向け始めるようになってきた。そこには,多くの人々の努力や苦労が積み重ねられており,自分たちの生活もそれによって支えられていることにも気付いてきた。それは,自分の家の農作業への関心,協力,手伝いという形で,徐々に実践に移されている。
また,2年次からは,学年の枠をはずした低・中・高学年ブロックによる「体験活動」の実践を試み,七夕音楽会,収穫祭に向けての造形活動を通して勤労体験のねらいを達成しようとしてきた。
これらの体験活動を通して,一つの目的のために全員が意見を出し合い,創意工夫を生かし,協力し合って物を作り出そうとする意欲が高まってきた。5. 日常生活における勤労体験的学習
学校教育活動全領域の中で勤労体験的学習を実践することを基本方針とすることから,学校生活のあらゆる場において,教師と児童が共に汗して協働し合う機会を多く求めてきた。
具体例の一つが,縦割り清掃である。2年次から全校児童による縦割りの清掃班を編成し一斉清掃を行ってきた。各班7〜8名,1年〜6年まで各学年1〜2名による班ではあるが,全校児童が協力し合い,上級生は下級生を教え,下級生は上級生に学びながらの活動を通して,勤労の実践化をはかってきた。
具体例の二つめが,朝の奉仕活動である。毎週木曜日朝8時から15分間を活動の時間として設定し各学年ごとに分担箇所を決め,全校一斉に学校美化に努めてきた。以上のような,日常生活における意図的な勤労体験の実践により,活動の成果がはっきりとみられる活動に対して,児童は意欲的に取り組むようになってきた。縦割り清掃で下級生を一生けん命世話する上級生の姿。木曜日の朝になると先を争って外へ飛び出す姿。さらには,小体連の練習を終え,うす暗くなった帰り道をゴミ袋を片手に空き缶拾いをしながら帰る児童の姿に,少しずつではあるが,働くことの大切さ,尊さをはだで感じ,実践化が身についてきつつあるように思う。
1年生…運動場のごみや小石を拾う。
2年生…運動場の雑草,落ち葉をとる。
3年生…東通学路の除草と清掃をする。
4年生…上校庭の除草と清掃をする。
5年生…校舎・花園周辺の除草と清掃をする。
6年生…観察池,裏庭周辺の清掃と整備作業をする。5 おわりに
(1)研究の成果
1. 教師の立場から見て
○研究教科(理科,図工)道徳・学級指導・学級会活動の「勤労体験的学習」にかかわる年間指導計画を作成し,それに基づく授業の実践を通して「勤労体験的学習」の意義,大切さが認識されてきた。
○教師自身が農園作業,花だん作業の方法を学び,自信を持って児童の指導に当たれるようになった。
○児童と共に汗を流す作業を通して,児童と教師のより密接な人間関係が育ってきた。
○作業をする活動の姿から,今まで見い出せなかった児童の側面が見られ,児童理解がより的確になされるようになってきた。
2. 児童の立場から見て
○農園作業,花園作業への参加,縦割り清掃,体験活動を通して,それぞれの受け持ちを責任を持って果たすことの大切さや協力してなしとげる大切さ,下級生として上級生から学ぶこと,上級生として下級生への対処の仕方などを意識するようになってきた。
○すすんで花だん,農園に行って作物の手入れ,世話を積極的にするようになるとともに自然への興味,関心が高まり,家庭での手伝いをするようになった。
○学校生活全般の中で意図的に勤労体験的活動を取り入れたことにより,働くことへの関心,意識の高揚や,思いやりの心情も高まってきた。
○勤労の成果のみられるものへの取り組みは積極的になったが,地味な活動への取り組みがまだ消極的で,自主的な取り組みが少なかった。(2)今後の課題
○特別活動における実践の反省をふまえ,児童会・各委員会活動の活発化をめざし,これまで身につけた勤労への意欲の習慣化を図る。
○これまでのあらゆる活動を通して身につけた技術や態度を,今後の学校生括・家庭生活・社会生活の中で役立たせるよう工夫する。
○教師自身の技術の研修も随時,現職教育の中に取り入れていく必要がある。
児童と教師が一体となり共に汗して培ってきたこの実践を,今後とも子どもたちの全人的教育をめざして継続・実践して行く所存である。