福島県教育センター所報ふくしま No.68(S59/1984.10) -010/038page
教育相談
教育相談における家族療法的試み
教育相談部 野村 忠之
1.はじめに
来所する相談者の訴えは複雑な要因を含んでいるものが多く,現在のように個人の治療を中心とする考え方をとりながらも,問題によっては家族を一つのまとまりと見て,まとまりの中での人間関係の改善を意図する治療も必要になってきている。そこで家族ぐるみの治療を目ざす家族療法について紹介してみたい。
2.家族療法について
(1)家族療法とは
個人は家族というシステムに所属し生活をともにしてきている。従って個人がひきおこす問題行動の多くは,家族システムの問題が反映しておこされるとみられる。そのため家族のシステムを改善する努力を行うことで,個人の問題が解消されると考える。
(2)家族システムの診断
家族システムの診断について定説はだされていないが,遊佐安一郎氏はその著書“家族療法入門”の中で,健康な家族システムには,家族としての機能が十分果たせないシステムに比較し,つぎのような利点があると述べている。
- 人と人とのふれあいにあたたかさがあり,各個人の自律性も高い,また,個人個人の考えが尊重され,意見の違いもあたたかくうけとめられる雰囲気がある。
- 家族の中で両親の結びつきが強く,深い愛情で結ばれている。
- 個人個人の感情も表現しやすい雰囲気であり,お互いに思いやりの気持ちがあふれている。
従って,家族のそれぞれがいだく葛藤や怒り,悲しみの感情もあたたかく受けとめられるため,問顛行動をひきおこすに至らない。
このような理想的な関係をつぎのように図で表わしている。○ 理想的な家族システム(機能充実型)
問題をかかえている家族は上記の健康な家族と反対の機能を持っていると見ることができる。そのため,治療的な目標をたてるには,家族の人間関係のどこにひずみがあるのかをとらえる必要がある。岡堂哲雄氏は下記のタイプ別家族関係図をとりあげ,家族システムの構造と家族の機能的な力動性を把握し,その問題傾向を診断するのに役立つとしている。問題とされる家族システムとして,次のものがあげられる。
ア、夫婦の間の結びつきが弱く,親子関係がむしろ強すぎるタイプ (分離型)
イ、家族の中の一人が他の人たちから切り離されているタイプ (ひずみ型)
ウ、夫婦システムと子のシステムとに分離しているタイプ (世代の断層型)
エ、夫婦の結びつきと親子の結びつきが同じ強さを示すタイプ (仮性民主型)
オ、家族の人々が切り離されていて,家族としての機能が失われているタイプ (解体化型)