福島県教育センター所報ふくしま No.68(S59/1984.10) -011/038page

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(3)家族システムの治療
 家族を全体としてながめ,家族のシステムに働きかけ,家族の中で相手に対する見方を改善することである。すなわち,個々人の問題は家族システムに原因があると考えられるので,並行面接や合同面接などで家族関係を改善するように働きかける。
 治療にあたっては,相談者は勿論,その家族と話し合い納得のうえ合同家族療法を行うことが大切である。

ア、家族療法の事例
(1)主訴及び問題の状況
 不登校(登校拒否),父親は家庭においては厳格な人で,子供の行動に対して母親の養育態度をきびしく責め,子供たちにも自分の考えを押しつけることが多い。本人は両親に自分の悩みを相談することもできず,心理的に不安が高まった状態にある。
(2)対象 高校1年女子
(3)家族関係
相談開始時の家族関係 相談開始時の家族関係
家族の一人だけが他の人たちから離れている
(4)治療仮説
 両親の結びつきが弱く,母親がほとんど父親の前では自分の意志を表現できない。そんな母親のふがいなさと父親の思いやりのなさに対して,不登校という行動で不満を表わしていると見られる。
 子供の問題行動を改善するためには,両親がお互いの意見を尊重すると同時に,それぞれの役割を認めあうことで関係をよくし,子供たちが自由に自己を表現できるような雰囲気をつくりあげる努力が必要なことに気づかせたい。
(5)面接状況

  1. 第1〜3回(並行面接→間題状況の確認と改善のための努力の方法をさぐる)
     父親は一方的に話し,子供の不登校は母親のあまやかしが原因だときめつけ,きびしい養育を母親に要求する。本人は両親に相談できない不安といらだつ気持ちを訴える。
  2. 第6回(並行面接→家族関係の問題,特に夫婦の結びつきの改善が必要であることを考える。)
     家出,父親が迎えに行ったが一緒には帰宅しない。子供がなぜ家出したのか両親と考えるとともに不登校をきびしく責めた父とだまって聞いていた母親の態度について話し合う。
  3. 第8回(合同面接→お互いに思っていることを述べあい相手を理解しあう。また,家族関係の改善を考えあう。感情的なシコリが残らない配慮を)
     連続した欠席が続く。子供,親との並行面接後両者の希望で合同面接を実施,子供が望む両親の姿と両親の願いを中心に話し合う。不安や悩みを本気になって相談できる両親を,何でも話してくれる子供を互いに望んでおりながら,自由に表現できない家族の人間関係の問題を話し合う。
  4. 第10回(合同面接→家族関係を改善するための父親,母親の役割を考える。)
     父親は自分が家族の中でどのように受けとめられていたかがわかり考え込む。母親は家族の人間関係がもっと明るくのびのぴとあるべきだと話し,思いやりある雰囲気づくりについての両親の役割を述べる。その間,父親はうなづくのみである。
  5. 第13回(個人面接→自分への気づきと家族内での行動についてふりかえる)
     登校開始。両親特に父親が意見を聞いて相談にのってくれるようになったと明るい表情,自分を見つめるようなことばが聞かれる。
    相談終了時の家族関係 相談終了時の家族関係
    夫婦関係は強まり理想的な家族に近づく。

    4,おわりに

     事例の家族に個人,並行面接を続けても互いに相手を理解することが困難で,両親の役割についての気づきも少なかった。合同面接でお互いの考えを述べあい理解しあうことで予想以上の効果が見られたが,今後,より両親の信頼関係を強め,家族関係の改善をはかるよう援助していきたい。

      参考文献
    • 家族療法入門       遊佐安一郎 星和書店
    • 家族救助信号       鈴木浩二 朝日新聞社
    • 家族臨床心理の展望          金子書房


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