福島県教育センター所報ふくしま No.68(S59/1984.10) -012/038page
生徒指導
薬物乱用の実態とその指導
経営研究部 藤本 忠平
1.はじめに
福島県薬物乱用防止対策推進本部の薬物乱用防止に関する申し合わせの中に「学校教育において,覚せい剤・シンナー等の乱用が心身に及ぼす悪影響について科学的に理解させるとともに,これを使用しないよう指導の徹底を図る。」という一項が示されており,学校においても薬物乱用防止の指導が行われてきた。しかし,最近におけるシンナー等の薬物乱用少年は,法的規制や取り締りの強化など防止対策が進められているにもかかわらず,あとが絶たない状況にある。その薬禍は,中学生,高校生のみならず,小学生や女子にまで広がり,増加する傾向にあるので,薬物乱用の実態について理解を深め,指導の徹底,強化を急がなければならないであろう。
2.薬物乱用少年の補導人員
福島県警察本部の調べによると,この5年間に補導された薬物乱用少年は表1のとおりである。総数はやや減少しているが,女子の増加が注目される。
表1 薬物乱用少年補導人員
年別
区分昭54 昭55 昭56 昭57 昭58 補導人員 補 導 980人 1,233人 1,316人 1,009人 983人 男 882 1,115 1,154 875 808 女 98 118 162 134 175
学職別状況は,高校生が減少したのに対し,小・中学生が増加しており,年少化の傾向がある。特に昭和58年の構成比は表2のとおりで,学生・生徒が乱用少年の36.1%を占めている。
表2 学職別状況(県警本部調べより)
学職別
年別小学生 中学生 高校生 他の学生 総 数 昭 58 0.3% 12.9% 20.0% 2.9% 983人 昭 57 0.1 12.0 20.3 1.4 1,009 増 減 0.2 0.9 △0.3 1.5 △26
※ 女子の薬物乱用増加が注目される理由
女子の頃合は,非行が深まるにつれ,飲洒,喫煙からシンナー等吸引,更に覚せい剤注射.それに伴う性非行,売春という一連の転落過程をたどる場合が多いからである。しかも,女子の薬物入手は,ほとんど男の友達に依存しているから,男女の集団によるシンナー等の吸引においては,はとんど性非行を伴うといわれている。このように,女子の薬物乱用と性非行は密接に関連しあっており,更生が極めて困難な状態に陥る場合が多い。
警察庁は,57年以降,女子中学生による覚せい剤乱用が大幅に増加していること,59年上半期(1〜6月)に補導された少女は全国で537人で7.2%増加し,覚せい剤汚染が少女に広がっていることを指摘している。3.乱用薬物の有害性
シンナー等は,トルエンを主成分(25〜70%)にエステル類,アルコール類その他を含む有機溶剤として,塗料,ゴムなどの溶解,希釈に用いられる。ボンド類(接着剤)は,トルエン(約50%)とノルマルヘキサン(40〜45%)を成分に含んでいる。
これらを吸引すると,その毒性によって,中枢神経系の機能が低下し,めいてい,陶酔状態となり,幻覚を生じたり,情緒不安定で多幸的,発揚的,衝動的,攻撃的などの精神症状が現われる。覚せい後は,視覚異常(巨視,微視など)や知覚異常(しびれなど)がのこる。反復吸引すると慢性中毒症になり,回復不能の脳萎縮が起きる。それに伴い意識障害,言語障害,運動失調その他多くの心身の機能障害が生じる。これらの有機溶剤の連用は,同じ刺激を加えても同じ快感を得られなくなる知覚の「刺激いき」の法則により,次第にその効果が滅弱するので,快感を得るためには前より多量の有機溶剤を吸引する結果をもたらす。
また,薬物自体に依存性を促進する性質があり,精神的,身体的にその薬物なしではいられない状態になる。このような依存性が生じることは,乱用頻度や補導回数にも現われてくる。例えば,昭和58年に県内で補導された薬物乱用少年696人の乱用頻度は「ときどき」が471人(67.7%),次いで「常用」が141人(20.3%),補導回数においても2回目137人(19.7%),3回以上174人(25.0%)であることは,乱用少年が1回きりでやめることが