福島県教育センター所報ふくしま No.68(S59/1984.10) -031/038page
国語I の古文
指導対象
生 徒第1学年 女子
積極的な発表はのぞめないが,ヒントなどを与えればよく考え,集中力はある。教 材 伊勢物語 第6段 「芥川」 教材の分析
並びに構成
- 「歌物語」という形式をもって形象化された平安時代の人々(男・物語の語り手,語り伝えた人々)の心を読みとらせたい。
- 前半:
- 愛を貫徹しえたと思った辞間,奈落の底につき落されたような男の絶望的悲しみ。
- 後半(後人注記と言われる的分):
- 男の悲しみは,律令制社会のしくみの中から生みだされた,真実の姿であること。
- 心情語を一切用いない叙述を,語・文法・敬語に依拠しつつ,想像させ,鑑賞させ,特に文法が鑑賞のための武器になることを,実感として感じさせたい。
学習活動の展開 <男の悲しみを生みたてた律令社会に生きた女の例として>
- 音読(朗読→斉読)簡潔な表現の美しさを味わう。
- 登場人物を整理し,あらすじをつかむ。
- 古典語として特徴的な語・語法をとらえ,原文の深さを読み味わう。
- 語(句)
- 芥⇔白玉,神,女御,下
- わたる (男の愛ののっぴきならないこと)
- をり (“居たりけり”と比較し“男”の心イコール“語り手”の心であること)
- 語法
- なむ 男に問ひか ける (係り結び,女のイメージ)
- 夜もふけに ければ (悲劇の伏線)
- 食ひ てけり (語り手の気持ち)
- はや夜も明 なむ (男の願い)
- え 聞か ざり けり (不条理)
- 消えなましものを (屈折した心情)
- 敬語
- “給ふ” “おはす” (男,女,兄人の身分,当時の社全体制)
- 歌に表現されている“男”の気持ちをまとめる。
- 蜻蛉日記の作者について(教師補説)
評価並びに生徒への
定着のたしかめ・評価の1つに,感想文だけは,必ず書かせる。
- 登場人物(語り手,語り伝えた人々)の心が感じとれたか,またそれを的確に表現できたか。
- “男” “女”の人間像はつかめたか。
- 助動詞,助詞,敬語の用法は理解できたか。
- 上記1を確実なものにするため,書きまとめる(下記のようなプリントを配布)
- aは本文の表現である。bは類似の表現である。
- 設問1 ・印の部分を文法的に説明せよ。
- 設問2 bの表現と比較しつつ,言外に述べられている「男」の気持,語り手の気持ち,あるいは語り手が,読者の感じさせようとしたことを,想像して書きなさい。
留意点
- 辞書にあたりつつ,重要語句の語感をつかませる。
- 文法指導の場合は.その語の有無こよって,内容がどのようにかわってくるのかを比較させ,のっぴきならない凝縮された表現であることに気づかせる。
- 自分のことばで発表させる。
昔、男ありけり。女のえ得(う)まじかりけるを、年を経て呼ばひわたりけるを、からうじて盗み出(い)でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率(ゐ)て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。行く先多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる倉に、女をば奥に押し入れて、男、弓・胡 (やなぐひ)を負ひて戸口にをり。「はや夜も明けなむ。」と思ひつつゐたりけるに、鬼、はや一口に食ひてけり。「あなや。と言ひけれど、神鳴る騒ぎに、え聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば率て来(こ)し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。
白玉か何ぞと人の問ひし時露と
答へて消えなましものを
後段略 (第六段)