福島県教育センター所報ふくしま No.70(S60/1985.2) -010/042page

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周囲の人からよくほめられる。両親の養育態度は,放任・矛盾・不一致型である。

(5)指導方針

1.Bの訴えや行動を受容して心をほぐし,当面,登校刺激をさけながら,起床,就寝,食事を中心に生活のリズムをつくる。
2.Bの抱いている問題意識を手がかりに,自己洞察するカを伸ばし,不満や攻撃の理解のし方や満たし方を身につけさせる。
3.学校や級友に対する不安を系統的に脱感作して,登校できるようにする。

(6)指導経過とバウムの特徴的な変容

 次のような分析を通して指導援助に生かした。

◎6月のバウム:用紙の下方・横に広がるバウムでありある抑圧を感じながら,樹冠全体に広がった多数の先が槍のように鋭い枝は,激しい批判性,敵意を示唆する。しかも,枝を継ぎたして先を太く分枝させ,不満に不満を継ぎたし感情がうっ積しているバウムである。その対象・原因は何か,自分に問題はないか,自己洞察させる必要がある。幹から出た切断された枝は,幼少時における心理的外傷体験へのこだわりを意味する。過去にとらわれ現在以降をみようとしていない,外傷感情を自分の正当化の手段としているのかも知れない。これらの感情を受容し認めて昇華させる必要がある。用紙の下方に位置し,はみだしたバウムは,洞察カの不足である。また,家族のカ動の中で,批判や攻撃の学習をしでいないか。何かと攻撃する材料を求めたり,攻撃される前に攻撃することによって,自らが心理的に安定していることはないか。家族の人間関係の改善を要する点である。

◎11月(5ヵ月後)のバウム:まず,感情の抑圧,敵意や攻撃性の顕著な減少があげられる。また,樹冠に葉をかき,幹と樹冠とのバランスがとれ,更に,枝が幹の大きさとっり合いがとれ適切に接続し,上方に伸びた先の細いより自然な形になっている。これは,外界と調和し,満足を得ていく能カがあると自分自身で認知し,自分をよくみせようとするナイーブな気持ちと認められたい欲求を示して,自分や周囲に対する洞察力が伸びていることを意味する。これらの変容を,両親に知らせることが大切である。

 しかし,このバウムは,葉で攻撃性を隠し,つめのような根が攻撃的態度を示していること,更に,情緒的満足を避け,非社交的で持続性が不足しているなど,6月のバウムと変わらない部分があることを見落としてはならない。

 なお,形成化法により,Bは登校に向けて,段階的に行動の学習を積み重ね,冬休み直前の12月20日以降登校している。

バウム

4.おわりに

 バウムテストは,幼児から成人まで広く適用できる。その診断が指導援助への重要な指標となり示唆を与え得るものであるためには,解釈の習熟度を高めることが大切である。

<参考文献>

・バウムテスト 林勝造他訳 日本文化科学社
・描画テスト入門 高橋雅春著 文教書院
・臨床心理用語事典2 小川捷之編 至文堂
・所報ふくしま No.57 福島県教育センター

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