福島県教育センター所報ふくしま No.70(S60/1985.2) -013/042page

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受講者の感想

小学校図画工作講座を受講して

郡山市立永盛小学校教諭 鈴木智恵子

「わあ,松の木の皮はせんべいだぞ。ほら,パリパリって1枚ずつはがれるんだから。」
「3人で手をつないだって,すき間ができるくらい太いんだよ。」
「あらっ,皮と皮の深い所にありがいる。わっ,死んだせみがくっついてる。」

 7月23日から26日までの4日間小学校図画工作講座を受講し,夏休みの終わるのを待ち兼ねて図工の授業を行ったときの子供たちの歓声でした。

 子供たちは新しい発見や驚きを夢中で画用紙の上に表現していきました。

 いつも,画用紙の左端に右向きの女の子と,女の子と同じ大きさのチューリップしかかけないS子も画用紙の真ん中に直径10センチもの松の幹をかいて皆んなを驚かせました。

 このように子供たちを変えることができたのは,図工講座で宮本朝子先生(東京都大田区洗足池小学校教諭,モダンアート協会々員)の講義を受講し,更に講座担当者の技術指導を受け,その幾分の一かを真似て授業を進めたからなのです。

 宮本先生から『絵画指導のポイント』についてご指導をいただきましたが,先生はその中で,「児童の意欲と関心を高める原動カは「主体的な見せ方」をさせることにあると次のように説かれました。

『対象をよく見てかきなさい。細かいところまでかきなさい。点を打つように色をぬりなさい。淋しいからもっとかき加えなさい……。などといった言葉かけは助言と言えるだろうか……。こんなことを言われ続けて,いったい何が育つのだろう。

 よく見てかかせたい。子供たち1人1人に自分の目で見る力を育ててやりたいという教師の願いがあれば,「見る」とは何かということを分析してみる必要がある。(見る) (視る) (観察してみる) (想像してみる)(さわってみる)といった活動がその中に含まれていよう。また,「見る」という活動の中には,対象に対する「やさしさ」「いとおしさ」などの感情の移行も含まれていると考える。一人一人の子供が何を見たいのか,何に自分の感情を移したいのかをはっきりさせてやれるような教材研究をしてみることが大事である。』

 学習の意欲や関心を高めさせることは,図工に限らず全ての教科の指導を進める上で最も根底をなす大切なことですが特に図工においては,主体的な見せ方の指導を通していかに意欲や関心を引き起こすか,更にそれを導入段階から作品を仕上げる段階までいかにして持続させるかが今後の指導の課題であると思いました。

 また,見る対象に「やさしさ」や「いとおしさ」を持たせるということは,『心豊かな子供の育成』を目ざす上で欠くことのできない重要な指導内容であると思います。

 1本の老い松を撫で,その膚触りから風雪に耐えてきた幾星霜を思いやり,労りの心や敬愛の心を育てていくことの大切さ。更にその暖かい心情を表現させるために教師自身も児童と同じ瑞々しい感受性を持ち,心豊かな暖かい人間でなけれぱならないことを強く感じました。

「よい絵をかかせようとして急いではならない。手を使って考える子供,自分の眼で発見することのできる子供,自分の心で豊かに感ずることのできる子供を育成を通して「自ら考え正しく判断できる力を持つ子供」を養い育てていく手だての1つに図工科の授業がある。』という宮本先生の話しから,私たちは図工科の重要性を改めて認識し,他の教科と同じ価値を有する1/8の教科として力を入れていかならないと思いました。

 また,安積女子高教諭の熊谷正晴先生から『紙工作の基礎・基本と教材製作』について,講義と実技の指導を受けました。工作の実技研修を現職教育の中に取り入れている学校など数少ないと思われる今日,先生のご指導が,即,明日からの授業に役立つことを喜ぷと同時に,熊谷先生の研究熟心な態度と創造力に深く敬服しました。私たち受講生もただ教えをうけたとおりに作るだけでなく,自ら考えて,子供たちの学習の糧になるものを造り出していかなけれぱならないと反省した次第です。

 最後に,異常に暑かったこの夏.冷房の効いた教育センターで講座担当者のすばらしい学習環境作りと,私たち受講者側にたって周到に計画された研修内容とで,何回かの各種の受講の中でも,最も意義深く印象に残る講座であったことを心から感謝します。


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