福島県教育センター所報ふくしま No.70(S60/1985.2) -025/042page

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 この研究をとおし,語しことぱ(音声言語)にこだわらず,その子どもなりのコミュニケーションの手段を見つけ,その対応を考え,コミュニケーション能カを高め,そして情緒の安定を図り,よりよい発達を促進させようと考えた。

3.研究の概要

◆事例研究 その1

重度精神薄弱児のコミュニケーション方法の実態をとらえるためのあるこころみ

小学部3組 Y・F 両教諭

(1)はじめに

 この事例は,58年入学した重度精神薄弱児T児の実態をどのようにとらえるか,本児の習得している特定の行動を抽出し分析したものである。

 本児は,自分の欲求や感情を伝える方法(信号)をもたぬため,的確に対応してやれず,かみつき,自傷,大小便失禁等の不適応行動が目立った。このような状態を打開するためには,本児の実態をとらえることが先決であると考えられた。

 そこで,本児の行動から「手つなぎ」「かみつき」「排尿」の三つの行動(信号)に着目し検討を加え指導の手がかりを得ようと考えた。

(2)対象児の状況(本文略記)

・出生,難産で鉗子分娩,仮死産,母分娩後死亡
・身体発育順調なるも,常に走り回り,表情も乏しく,2歳10カ月 H病院で自閉症と診断される。
・S学園(3歳2か月より14か月),その後入学まで・継母に育てられる。
・入学時にK学園に措置入園し,本校に新入学。

(3)指導経過

(3)−1 障害状況の分析と指導方針

 本児を観察すると,表情,音声,手の振り,走る等々,数々の行動(自成信号)がみられる。その中では行動の調整をとり易いものと,とり難いものとがあり,その行動が,どのような条件下において変化を示すかをとらえることから,本児への有効な働きかけの方法や,場面の設定条件が得られるであろうと考えた。

(3)−1−1  「手つなぎ」

 4月当初,床を転げまわり激しく泣く,教師や他児にもかみつく。遊びは長続きはせず,一時間に排尿10回を越える。時に無意味と思える声を出す本児の興味を探るうちにトランポリンに乗せてゆすると泣き止むことを発見する。教師が疲れて休んだ時,しぱらくじっとした後に,教師のところへ寄ってきて,一瞬教師の手にふれようとした。同じ場面を再現すると,同様の動作がみられた。これは明らかに要求を示す「行動信号」と考えられた。そこで,トランポリンを利用し,「手つなぎ」を要求行動の信号となるよう行動形成を図ることとした。

(3)−1−2「かみつき」

 機嫌がよい状態の時,突然「かみつき」行動をおこすことがあったが,多くは遊びを中断されたり,走る方向を変えさせられた時や,おやつを終えた時にみられた。欲求を阻害されるか,そのおそれのある時におこすものと考えた。社会的に好ましくない行動であるが,他児への配慮をしながら,強く規制することを避け,本児の手をとり「なあに」と反応してやることにした。「かみつき」も現状では不適切ではあるが,大切なコミュニケーションの一手段であると考えたからである。

(3)−1−3 「排尿」

 学校行事や集団学習等の必要から行動を制約された時は当然であるが,ひとり遊び,食事中でも突然便所に走りこむ。数分おきにするため,数滴しか出ないこともある。輿奮が激しい時は,自分が入ると戸を閉めてしまう。

 また,砂や泥をいじる時にも排尿して手でこねたり,口に入れたりして遊ぶこともしぱしぱ見受けられた。

 これらについても,強く行動を規制することはせず,観察を十分にした。

(3)−2 記録の方法と整理

・記録時間は,登校から昼食終了までとする。
・他の教師からの申し送り等も記録する。
・日曜や病気による欠席を省き,3日が1セッションとなるよう表の整理をする。

(3)−3 「三つの行動」の経過


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