福島県教育センター所報ふくしま No.71(S60/1985.6) -008/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

高教材

ベンゼン誘導体の酸化について

科学技術教育郡 上遠野 洋明

1 はじめに

ベンゼンを出発物質とする多様な反応の系列は有機化学の中でも中心的な題材の1つであるが,これらに関して行われる生徒実験は意外に少ない。

それらの物質が持つ特異臭や有毒性,水に難溶であるための取り扱いにくさ,更には反応の進行の遅さがその要因である。

ベンゼン環の側鎖の酸化についても,必ず教科書等にその記載はあっても実験として取り上げられることはまずなかった。しかるにペンジルアルコールは水溶性であって,かすかな芳香を持ち,その酸化は極めて容易に進行する。

このことを含めたベンゼン誘導体の酸化について次に報告したい。

2 ペンジルアルコールの酸化

三角フラスコ(50ml)にペンジルアルコール (1) を1mlとり,これに無水炭酸ナトリウム0.5gと過マンガン酸カリウムの飽和溶液 (2) を30ml加える。

ゴム栓を軽くして振りまぜているとすぐに発熱して反応が始まり, (3) 内容液は褐色になってくるのでこの時の反応液のにおいをかいでみる。 (4) その後しばらく振りまぜながら反応熱がおさまるのを待ち, (5) ガラス棒で反応液を1滴ろ紙につけてみる。

褐色沈殿の周りにまだ赤紫色が残る時は更に振りまぜ,色が消失したらこれをろ過する。 (6)

ろ液はビーカー(50ml)に受け,張りまぜながら濃塩酸0.5mlを滴々加えよ。 (7) 次に生じた沈殿をろ別し,洗ビンを用いて沈殿を2度洗ってからこれを試薬さじで試験管に移し,水を10ml程加えて加熱溶解させた後,放冷する。結晶の析出を観察したら (8) 更にろ別し,結晶のついたろ紙を別の乾いたろ紙上に広げて乾燥器に入れ,低温で乾燥させる。 (9)

注(1)無色液体,b.p206 C,d1.05,水に可溶

(2)溶解度6.4g(20 C)

(3)少し強く振りまぜた方がよい。かなりの発熱がある。反応式は次の通り,

3C 6 H 5 CH 2 OH+4KM n O 4

→3C 6 H 5 COOK+4M n O 2 +KOH+4H 2 O

(4)ペンズアルデヒドが生成している。無色液体,b.p179 C,水に難溶

(5)なるべくなら体温位まで冷えるのを待つ。

(6)ろ液に濁りがある時はこれを水道水で冷やした後,更にろ過する。また,ろ液が赤味を帯びている時は極く少量の亜硫酸ナトリウムを加えて色を消してから少し加熱し,放冷後にろ過する。

(7)PH=3以下の酸性にする。

(8)きれいな針状結晶,熱水に易溶。

(9)安息香酸は100 C以上で昇華する。

3 トルエンの酸化

三角フラスコ(50ml)にトルエン (1) を1mlとり,これに無水炭酸ナトリウム0.5gと過マンガン酸カリウムの飽和溶液を10ml加え,更に沸騰石を3粒 (2) 入れて冷却器 (3) をとりつけ,図の様な装置を組む。

装置図 金網は2枚重ねて用い, (4) 反応液がわずかに還流する程度に極くおだやかに加熱する。 (5) 60分程加熱を続けて三角フラスコ内の反応液に赤味が無くなったら加熱を止め,ガラス棒でこの液を1滴ろ紙につけてみる。褐色沈殿の周りにまだ赤紫色が残るようなら更に加熱を続け,あるいは反応液に亜硫酸ナトリウムを極く少量加えて無色にした後, (6) 少時放冷してからこれをろ過する。

炉液を振りまぜながら濃塩酸を,もはや発泡も止み,新たな沈殿も生じなくなるまで滴下 (7) し,氷または水道水で冷却する。次にこの沈殿をろ別し,沈殿を水で2度洗ってから少量の熱湯を注いで沈殿を溶解する。ろ液は試験管に受け,放冷して結晶の析出をみる。


注(1)b.Plll C,d 0.87,水に不溶

(2)反応液は沸騰しながらもなおかつ突沸するので,沸騰石は冷却管を通して適宜追加して


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。