福島県教育センター所報ふくしま No.71(S60/1985.6) -012/038page
しかし,よく言われているように,非行の芽が残りの児童にも何らかの形で潜んでいると考えておくことも必要であり,いわば,学校全体の問題として受け止めておかなければならない。
したがって,非行の背景や要因は,家庭・地域社会のひずみが相互にからみ合っていて複雑だが学校として解決の図れる方策を探り出し,非行のあるなしにかかわらず取り組んでいくべきである。
例えば,道徳教育の全体計面を立案するにあたっては,他の教育活動との関連,家庭や地域社会との連携について,非行の抑止という視点からも共通理解を図っておくことが大切なことになる。
3 非行の抑止のために
(1)道徳の授業を通して
道徳の授業は,ねらいとするその時間の道徳的価値を実際の行動にただちに結びつけることではなく,いわゆる道徳的実践力を培うことにある。
つまり,児童生徒の発達に応じてとらえさせていく一つ一つの価値が,組み合わされ累積されて人格の形成が図られていくのである。
したがって,道徳の1時間1時間の授業のすべてが人間としての生き方に結びつき,直接的ではないが非行抑止にかかわっているといえる。
そのため,児童生徒一人一人の存在が否定されたり,無視されたりすることがない温かな人間関係を確立し,自分の弱さをありのまま出して,何でも話し合えるという道徳の授業にしていくことが望まれる。
ややもすると,教科の授業では,成績上位の児童生徒だけが発言をしたり,活躍したりしがちである。
しかし,道徳の授業では,教科の成績が下位の児童生徒も気がねをしないで臨み,人間としての生き方を考えるという立場から同等に発言し,活躍することができるようにしていきたいものである。
また,非行などは,自律心が育っていないために起こることが多いので,道徳の指導にあたっても児童生徒の自律心を正しく育成するという心構えであたることも大切である。
教師は,「自主的に生きなさい」という言葉を児童生徒にいくら投げかけても自律心が育たないことを自覚し,それぞれの学年に応じて,自律に必要な価値観が形成されていくように,道徳の授業をより充実し,計画的に道徳的価値の累積を図っていくことが必要である。
さらに,困っている人々に奉仕の手をさしのべるとか,他人への愛に喜びを感じて生きていく生き方に心からの共感を得させるなど,道徳的価値が行動や生きる喜びにつながるよう指導し,実践への方向づけをしてやることも大切である。
例えば,自主自律に直接結びつかないような友情の指導においても,友情の大切さを把握させるだけに留まらないで,実践した時の心にひびく心地よさに気づかせるとか.友情に支えられて生きる生き方のすばらしさにも目を向けるように配慮していくことなどである。
以上のように,道徳の授業を通して,自律心を育て,人間として生きる喜びを発見させるなど,道徳の授業を大事にしていかなければならない。
(2)家庭・地域社会との連携を通して
次の1,2表は,非行に走った小・中学生の家庭と親の養育態度についての調査結果である。
1 家庭の雰囲気 人(%)
状態 区分 小学生・男 中学生・男 中学生・女 明るい 2 (0.5) 4 (18.2) 普通 5 (31.3) 11 (27.5) 13 (59.1) 暗い 11 (68.7) 23 (57.5) 5 (22.7) 他(不明を含む) 4 (10.0) 合計
16 (100.0) 40 (100.0) 22 (100.0) 2 親の養育態度 (人)
態度 区分 小学生・男 中学生・男 中学生・女 父 母 父 母 父 母 放 任 3 7 5 4 9 7 拒 否 3 2 4 虐 待 2 6 2 1 無 関 心 2 2 1 1 2 厳 し い 1 1 3 4 1 2 口 う る さ い 1 3 3 偏 愛 2 1 あ ま や か し 2 2 1 1 表からもわかるように,家庭の雰囲気や養育態度の偏りが非行の原因となるように思われる。
そして,このことは しつけ がいかになされ,基本的生活習慣の形成にどう結びついているか,ということにつながっていくと考える。