福島県教育センター所報ふくしま No.72(S60/1985.8) -004/038page

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る。
 そこで,小学校5年の教材「海」を例にとって考えてみよう。

  「まつばらとおく きゆるところ/しらほのかげはうかぶ/はしあみはまにたかくして/かもめはひくくなみにとぶ/みよひるのうみ みよひるのうみ」

 「まつばら」は,遠い場所を表現しているのであるから,子音は強調されず,母音も明るい母音ではなく,くぐもった響きになろう。また,「かもめ」は,それに比べると近距離であり,動きのある表現であるから,子音は強調され,母音は息を沢山使う必要がでてくる。「みよ」では,広い視野を表現しているので,美しく明るい母音が要求されるのである。このように,メロディーに意味を持たせる表現として表1において「発語」という表記をした。このことは,器楽の場合でも表現の意味を含んだメロディー作りに際しては計画的に配慮する必要がある。

○ ハーモニー
 小学校高学年では,ハーモニーが重視される。ハーモニーについても学習指導上かずかずの配慮が必要であるが,ここでは特に「心のハーモニー」について考慮してみたい。小グループでのアンサンブルでは,それぞれの成員が,他の成員に対する思いやりをもって参加し,自分の置かれた立場に責任を持つことが要求される。したがって,その表現が音楽としての調和を保った時,同時に人間的な調和が成立しているのである。このことは,音楽以前の問題のように受け取られようが,実はこの生徒指導にかかわる指導計画上のさまざまな工夫が特に重要なのである。

○ 表1の全体にかかわる事柄
・ 表現と鑑賞の一体化
 表現のとき,同時進行で鑑賞がおこなわれ,鑑賞のとき同じように心での表現がおこなわれているような配慮,つまり,音を真剣に聴きとる,音が発せられている状態を注意深く観察する,といった状態を常に保つような配慮が大切である。
・ 身体表現
 身体表現の学習活動は,音楽を体の動きで体得させ,表現と鑑賞の両面にわたって深みを持たせることができる。したがって,この要素は小・中・高を通して重視されなければならない。5年においてはフレーズ感の養成や,和音(例えば,I度は安定,IV度は高揚,V度はしずむ感じ,また,基本形は正面,展開和音は斜めや横向きなどの体の動きで把握するなど)を把握させる場合に併用すべき重要な学習である。
・ 形と感性
 音楽は,元来身体を使って音を発するのが基本である。このことは,筋肉の持つ記憶保持能力と小脳の訓練に深くかかわっているはずである。つまり,このことのみを考慮すれは 音楽の指導は,形からの訓練が重要視される。
 反面,好きこそものの上手……を重視すれば,情感からの導入が重視されよう。小学校低学年で“とってもきれいだねー”“こわーい”など情感の育成の大切な時期には,当然のこととして情緒的な展開がなされなければならない。しかし発音(道具を用いた場合を含む)の場面では,どうすればその音が出せるか,の思考錯誤を含めて形への注目を喚起させ,最終的には,音楽と形との結び付きに気づき,すばらしい音楽のためへの形の矯正と心からの音楽へ指向しようとする自己教育力のかん養に結びつく指導計画が望まれるのである。

5 おわりに

 音楽教育においても小・中・高の一貫性を重視すべきことはいうまでもないことであるが,実際には小・中・高の指導内容を概観することは必ずしも容易ではない。そこで,小・中・高の指導内容を様々な要素ごとにその発展過程と児童生徒の心身の発達その他を一覧表にして概観してみた。 この表を活用することで将来の学習の方向が把握でき,また逆に過去に学習した内容を知ることにより,児童生徒の実態把握などへ利用いただければ幸いである。


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