福島県教育センター所報ふくしま No.73(S60/1985.10) -002/038page

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小・中・高教材

「読み深め」のための「基礎語」の指導

教科教育部  半 澤 正 一


1 「基礎語の指導」意味
 「ママ,ママ。新幹線の前はどっちなの。」東京駅は,新幹線ホームでのことである。5歳ぐらいの男の子が,停車している新幹線列車を見ながらつれの母親に尋ねた。母親は一瞬とまどった様子だったが,やがて列車が走り出すと,その進行方向を指さしていった。「ほら,あっちが前よ。」移動する物体の前後は,その進行方向によって決まるのだから,正に“御名答”であった。それにしても,新幹線列車のように,両方向に運転席のある車両の前後は,動き出してみるまで分らない。「一休頓智咄(とんちばなし)の「大福餅の裏表」同様,これもまた難問中の難問だといえよう。「マエ,ウシロ」,「オモテ,ウラ」いずれも,普段何気なく使っている言葉ではあるが,ひとたび我に返って,その意味するところを現実に即して考えてみると,必ずしも易しくはない。
 ところで,「語句指導」では,いわゆる難語句はとりあげるけれども,このような日常使い慣れている言葉,「基礎語」をとりあげることは少ない。しかしながら,分りきっているとは思っても,時には基礎語にもこだわってみる必要があるようだ。というよりはむしろ,こんなところにこそ,「読み深め」のための「語句指導」の新たな視野が,開けていそうに思われるのである。

 大造じいさんは,思わずおどろきの声をもらしてしまいました。(「大造じいさんとガン」,光村小5・下)


 例えば,この文の「声をもらし」の「もらす」について,「出す」との違いに気づかせ,「声をもらす」は,無意識につい出してしまったガンに対する感嘆の声であることを理解させれば,大造じいさんの気持ちはもとより,ガンの様子までもとらえることが容易であろうと思うからである。

2 「基礎語の指導」の視点
 基礎語の意味は,だれでも一通りは知っているわけだから,その指導に当たっても,単なる「辞書的意味の言い換え」などだけでは十分ではない。より厳密で的確な語義や語感の分析や考察のために,「意味の体系」を踏まえた指導こそが大切であろう。そこで,「多義語」と「類義語」の二つの視点から,「基礎語の指導上の留意点」をいくつかあげてみよう。

(1)多義語の場合
 「ヒト」という言葉が,「人間」あるいは「他人」などの意味をあらわすように,基礎語は多義語である場合が多い。だから,基礎語の指導では,次の諸点に留意して指導すると効果的であることが多い。
1.その語が,いくつもの意味をもっていることに気づかせる。
2.その語のもつそれぞれの意味について,類義語.反対語をあげさせ,それぞれの意味の違いを明らかにする。
3.基本的意味と派生的・比ゆ的意味との共通点や相違点を比較・対照して,その語の意味や語感を明らかにする。
4.その真のそれぞれの意味について,用例を示したり,短文を作らせたりして,その語の意味や語感をつかませる。
5.あらかじめ,多義語についての一般的知識を与えておき,その語の派生的意味はどのようにして生じたかを考えさせる。
6.その語は,辞書が示しているいくつかの意味のどの意味で用いられているか,文脈から判断させる。


(2)類義語の場合
 基礎語の指導で,類義語をとりあげるのは,類義語間の意味や語感の重なりやずれを比較・対照し,指導しようとする語の意味や語感をよ

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