福島県教育センター所報ふくしま No.73(S60/1985.10) -010/038page

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教育相談

教育相談におけるロール・プレイング(Role Playing―役割・演技―)の利用(その1)

教育相談部  佐久間益郎


  はじめに
 ロール・プレイングは人間関係訓練や心理療法の一技法として発展してきたが,現在は他人の感情に対する気づきを深める方法としても大いに注目されている。当教育相談部でも日々の相談活動に取り入れ効果を上げているので紹介したい。

1 ロール・プレイングとそのねらい
 ロール・プレイングは精神科医であるJ.Lモレノが創始した技法で,他の人々の社会的役割や自分自身の役割を即興で演じてみることである。
 人はそれぞれの立場で,ある役割を演じて(果たして)生きているという役割理論が基礎になっている。例えば,ある一人の男性についてみると職場にあっては職場の一員としての役割,家族にあっては夫としての役割,また父親としての役割を演じて(果たして)生活している。
 日常の役割はある程度習慣化されていることが多いが,それをふり返る機会が少ない。そこでロール・プレイングにより自分が他の人の立場に立って(演じて)みるとその人の見方,考え方をより深く理解できる。またこのことを通して自分自身の日ごろの態度や行動を新たに見直すこともできる。それは対人関係における情緒的な問題の起因を見つめることになるから社会生活における適応性を高めることにもつながる。
 反社会的行動など問題行動の背景には人間関係のひずみが大きく存在していることがある。このような場合,問題行動の改善の一技法としてロール・プレイングは有効である。

2 実施方法
 子供との信頼関係をつくりながら,主訴,問題の概要を把握する。次に問題行動の背景となる資料を,観察,面接,検査,既存の資料,また親などから収集する。その後,資料をもとに診断をし指導仮説をたてる。指導仮説に従いカウンセリングを実施する。カウンセリングの中で,人間関係を考えてみる,という子供の意志が決定されたところで,子供の了承を得てロール・プレイングを導入する。
 特別な場所は必要なく,机や椅子などがあれば良く小道具も必要ない。
(1)ロール・プレイングの順序
 1 ウォーミングアップ
 簡単な動きをすることやゲームをして,ロール・プレイングに対する緊張感や抵抗感をとく。
 2 主題の設定
 何々のことについて考えてみようという形でテーマを決める。
 3 場面設定
 子供の創造性をそこなわないよう大まかなことだけ決める。
 4 役割の決定
 子供の自主性を尊重して決める。
 5 ロール・プレイングの実施
 カウンセラーがストップをかけるまで続ける。
 6 話し合い
 子供,カウンセラーとも演じた役割を通して感じたことを話し合う。さらに話し合いの内容をもとにカウンセリングを行い人間関係について考えさせ,自分の日ごろの言動をふり返らせる。
(2)留意点
 1 ロール・プレイングはどのようなことをするのかを説明する。
 2 ウォーミングアップを十分に行う。
 3 演技するのに抵抗を示している場合は無理をさせない。
 4 脚本を用意しないことを原則とする。
 5 話し合いでは意図した結論を押しつけない。
 なお,集団で実施する場合は,ロール・プレイング全体の運営をする監督や単なる傍観者でなく

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