福島県教育センター所報ふくしま No.73(S60/1985.10) -029/038page
個人研究紹介 個別的学習をめざしたLLの利用
県立郡山高等学校教諭 久保木政行
1 はじめに
先ごろの臨教審の第一次答申で,教育改革の基本的な考え方の第一項に「個性重視の原則」が上げられているが,これは現在までの教育のシステムが,多様化した生徒に対応できなくなって釆ていることを示している。また最近の教育機器,電子機器の発達はめざましく,教育個別化の夢を現実のものとしつつある。欧米同様,日本でも個性に応じた教育の要求は,年を追って強まってきている。
新学習指導要領の「外国語を理解し,外国語で表現する」という目標を,生徒各人に達成させるために,教師はLLでどのような指導をしたらよいのだろうか。
一般に「個別指導」と言うと,到達目標,使用教材を同一にした個別的指導のことであるが,理想としては,目標,教材,学習法をすべて個人差に応じて設定しようとする個別化指導であろう。英語の授業も 学習活動から言語活動へと更に一歩を進め,従来の「読む」「書く」から「聞き・話す」を含む3領域4技能の総合的授業へ転移することが教師に求められているのである。
コミュニケーションを効果的に行うためには語彙力・文法力は勿論であるが,総合的知識の獲得もまた必須である。以下に本校で行っているLLでの学習指導について記してみたい。
2 音声指導について
昭和56年度末のLL設置以来,1年生を対象として1年間のLL授業を実施している。入学後すぐに,旺文社「現代米語の発音」,一橋出版「英語の発音・母音編,子音編」,その他のビデオ発音教材を用いて,調音と発音記号についての基本事項を説明する。発音については個人差が大きく小型の鏡による口型指導が必要なこともある。音と発音記号の関係が分かった所で,テレビを使用しての簡単な聴き分けテストを実施し,その結果によって,発音課題テープを渡し,個別指導を行う。
発音・アクセントのペーパーテスト上位者が実際の発音で間違いが多く,逆にペーパーテスト下位者が,聴き分けテストで高得点のこともある。
読みに関しては,中学校の英語教科書が非常に役に立つ。一度勉強している教科書なので,意味を取りながらの読みが可能であり,読書加速器を使うことにより驚く程スピードが上がる生徒もいる。最近は発音と綴りの指導を受けている生徒も多いので,初出語はなるべく発音を類推させている。
5月半だから,映像教材と音声教材を編集し直した教材を用いて「聞く・話す」を中心とした授業を行う。いずれの教材も同じであるが,ひとつの教材だけで,1年間を通して指導することは難しいことである。英語を得意とする生徒は易から難へのステップに乗ることができるが,英語を不得意とする生徒は,単一教材では途中からついて来れなくなる。後出の資料に,同一難度の教材が数種類載っているが,教材のスモール・ステップ化には,数種類の教材が必要とされるのである。
音声テープ教材は,場面設定の面で,分かりにくいこともあるので,本校ではLL開設以来映像教材で指導して来た。BBCの「ON WE GO」シリーズは,スピードがコントロールされており,聴解力の低い生徒でも興味を持ち,設問に答えている。リンガフォンの「On tbe Right Track」は,登場人物と対面して会話練習ができるように工夫されていることや,ゲームの要素が入っていることから,生徒に評判が良い。
ある演劇の指導書に次の一節がある。「多くの発声教師は,何の意図もなく,繰り返し繰り返しただ音を出す目的のために,同じ言葉を練習させるが,これは明らかに間違いである。言葉を話す目的は,内的な感情や考えを伝えるためで,音を出すためではない。(中略)言葉と感情の間には