福島県教育センター所報ふくしま No.74(S60/1985.12) -020/038page

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 生活記録では,赤ペンによる話しかけの徹底であった。しかも,結果をはやく知らせるという学年経営の基本にのっとり,その日のうちに生徒の生活記録「しゃくなげ」を返えすという処置をとった。
 学年通信では,作文,イラストや入賞・入選者の記載であり,どの分野で自分が認められたのかを具体的にしてやった。
 また,係活動では,一人一役による活動の場を設定した。
 結果は,数量的手法および観察的手法による分析では,いずれも,事前と比較して事後は,良い方向に伸びた。それぞれの場で賞賛し,激励し,成功する機会を与えてきたことが,プラスの変化となってあらわれたものと考えられる。この伸びが,生徒と教師の対話を多くする要因になったと思う。(事後調査では,生徒全体で69%,抽出生徒では10人中9人が教師と良く話しをするようになったと答えている。
 このことは,ピグマリオン効果をベースにした教師の,指導援助の方法を学年経営の中に位置づけて取り組んできた成果であると受けとめたい。
 しかし,マイナスの変化を示している生徒も数多くいる。この生徒たちには,能力,性格や環境などをふまえて,その生徒に応じた手だてを,さらに考えていかなければならない。
 また,その場,その場での生徒の気持ちを変えることはできたとしても,勉強は楽しいものだ(調査項目1)と感じさせたり,学級の仕事を進んでやろう(調査項目5)とする気持ちを起こさせるまでに至らなかった。このことは謙虚に反省したい。

5.今後の問題

(1)ピグマリオン効果の活用を基本姿勢とした学年経営の研究が,全体的にみて有効であったと認められた。しかし,生徒と教師の関係を十分に変えるまでには至っていない。
 本研究は,生徒の気持ちを和ませるのには,有効な方法であるという感触を得た。と同時に,授業や生活行動を問わず常に「伸びる可能性をもった生徒」としてとらえる「ピグマリオン効果」の活用を基本にすることの重要さをあらためて認識することができた。これからの学年経営にも採用していきたい。
(2)赤ペンによる話しかけや,学年通信への生徒作品や生徒氏名の掲載は,生徒に個々として認められた喜びや成就感の喜びをもたせるのに効果がった。そのことが,生活記録の継続や学年通信への積極的な投稿を生み,ひいては所属欲求を満たしていく一つの道であることをつかんだ。連日,生活記録の「しゃくなげ」を読み,朱書きを継続することは,一口で言って容易ではない。が,生徒のために是非継続していかなければならない価値がある。
(3)指導の前に,生徒は全て同じレベルではな.いことを常に意識しなければならない。生徒一人一人にあったはたらきかけを,どう改善していくかという課題をもち続けなければならない。そのためにも,観察の記録をたいせつにしたい。
(4)学習指導要領は,教科の内容を大幅に削減して,授業の展開にゆとりを生み出すことを一つのねらいにしている。このゆとりを生かし,生徒と教師の対話をさらに工夫していくこともこれからの課題である。


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