福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -001/038page
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巻 頭 言
コンピュータの発達とCAI学習システム
科学技術教育部長 渡 辺 専 一
コンピュータの発達は,学術研究,生産関係,通信関係や医療関係業務その他の分野においてめざましい技術革新をもたらしている。さらに近年はパーソナルコンピュータ等の研究開発が急激に進み巨大産業だけでなく,広く一般市民の日常生活にもとり入れられるなど,利用範囲が拡大し,まさに時代は大きく変貌しようとしている。
こうした時代的要請をうけて,本県においても,教育センターは勿論,工業・商業系高校等においてすでにコンピュータが導入され,「機器操作の基礎的学習や発展的・応用的学習」に用いられ,多くの成果をおさめてきている。
一方,近年「授業実践の中での教材提示(学習メディア)」の分野での利用が試みられ,その学習効果の事例が多く報告されている。こうした面からの学習指導へのアプローチが,いわゆるCAI(Computer Assisted Instruction)であり,「臨時教育審議会」においても,現在その推進に向けて具体的な検討が急がれているところである。また「情報化社会に対応する初等・中等教育に関する調査研究会議」及び「社会教育審議会・放送分料会並びに教育メディア分科会」等においても,この学習法の推進について提言を行ってきており,これをうけて今後急激に全国各学校に導入されることが予想される。一方,文部省においても,60年度より「教育方法開発特別設備整備費」を計上しており,CAI機器導入推進のため力を注いでいるところである。
さて,教育とは「教授し学習する過程」である。すなわち,その過程は.@学習内容を提示する段階があり,A次に子供たちにどれだけ情報が伝わったかをチェックする段階を経て,Bこれにどの程度反応し,学習したかの評価を行い,指導の手だてを加える段階に大別できる。CAIは,教材や資料などを豊富に蓄積し,瞬時に必要な提示を行うことが可能であり.更にそれぞれ個別に学習到達状況を把握することができ,一人一人の学習到達状況の程度に応じて,次の学習メニューを提示することもできる。これは,まさに学習指導の個別化であり,これを通じての「わかる喜び」の累積が,学習への意欲を育てることにもつながるであろう。
したがって.学校において,具体的に実践する場面では前述のような個別学習によって授業が進行する.いわゆる完全な「プログラムド・インストラクション」としてのCAIと,指導の補助手段として用い,必要に応じて情報を提示していく,いわゆる「サブリメント・プログラム」としてのCAIが考えられる。後者の場合は,たとえば一斉指導の中で「つまずきを生じた子供の補助学習として」また「学習内容を十分に理解した子供の発展学習として」それぞれ学習過程の一部をこれにあてたり,理科や社会科などにおいては,自然の動的な事象や統計的な図表の処理など,他のメディアでは説明しきれない素材を提示する「シミュレーション機能やグラフィック機能をとり入れる」いわゆる思考過程の補助として使用することも考えられ,その効果もきわめて大きい。いずれにしても利用場面においては,これら種々の方法を,学校や子供の実態に応じて有効に機能するよう適切に選択することが必要である。
学校教育の中でのコンピュータ(学習指導・学校運営等の利用も含めて)利用が日常化する日は,もうすぐそこまで来ている。すべての学習メディアがそうであるように,これをいかに有効に利用していくかは,教師の教材観に委ねられるところであるが,教育はあくまでも「教師と子供との信頼関係」に立っての「人間形成のための活動」であることを忘れてはならない。