福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -033/038page

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≪随 想≫
阿武隈川のハクチョウ

科学技術教育部   高野 忠夫


白鳥の写真

 今年も多数のハクチョウが福島市岡部の阿武隈川に飛来し長旅の羽をやすめている。
 川面に浮かぶその純白の姿はまことに美しい。
 日本に住む野生の鳥の中では最大であるハクチョウがクエークエーと鳴き合って群れ遊ぶ様子は壮観である。
 ハクチョウの群れを注意して観察すると,それぞれ家族ごとに行動している様子がわかる。
 灰色のハクチョウはひなどりであるがこれを囲むように純白の親鳥が行動をともにしている。
 この様子を見ていると,遠いシベリアやサハリンからこの地に来る長い旅の間も常に行動を共にしてきたであろう親子の情愛を感じる。
 ハクチョウが阿武隈川に来るようになったのは昭和45年6羽のハクチョウが飛来したのを土地の上竹二郎氏が餌付けしたことによる。
 ハクチョウの餌付けは,昭和25年新潟県の瓢潮に8羽が飛来したものを土地の吉川重三郎氏がえさを与えて保護したのがはじまりである。
 その後,餌付けは各地で行われるようになり,福島県では猪苗代湖や鏡石町の高野池そして,阿武隈川でも行われ,毎年多数のハクチョウが飛来するようになった。
 餌付けが行われる以前は,野生のハクチョウを間近に見ることはほとんどできなかったように思う。これはハクチョウのからだが大きいので大量の食物を必要とし,保護鳥になってはいてもその意識が低く,いたずらや,狩猟の対象になったりして,その数も少なく,人里離れた湖や川に数羽の群れが分散して飛来し,人が近づくとすぐ飛び立ち他の場所に移動してしまうからであった。
 間近に観察できたのは,公園の池などに,羽を切られて飛べなくなり,飼われて,羽が汚れ灰色になったハクチョウであった。
 餌付けが行われるようになってからは,人になれて間近に観察できるようになり,その数は非常に増えたように思う。
 阿武隈川に約600羽,猪苗代湖に約1000羽,高野池に約500羽と以前には考えられなかったほどのハクチョウが毎年飛来している。
 これは,ハクチョウにえさが十分に与えられるようになったことだけではなく,この様子が新聞やテレビで報道されたこと,そして,えさ不足になり市民に協力が呼びかけられえさ集めが行われたことなどのため,人々の意識が高まり,保護が十分行われるようになったこともその一因として考えられる。
 野生の動物を餌付けすることは,いろいろと議論されるところであるが,人々の野生動物の保護の意識が高まったこと,そして野生のハクチョウが間近に観察できるようになったことはすばらしいことと思う。
 ハクチョウは春になるとサハリンやシベリアに渡り,巣をつくり雛を育てる。このときはえさが与えられることはないと思われるので自分でえさを探して食べなければならない,このためには,自然にはえさの在る場所が少ないにしても,それを探して食べることもさせておく必要があると思う。しかし,えさ場に集るハクチョウやカモ(オナガガモ,マガモ,カルガモなど)は一日中その場所を離れようとはせず,朝に与えられるえさをただ待っている状態になっているように思う。
 淡水域に住むガンやカモの多数のものは夜行性で,夕方日が沈むとともに飛び立ち,芦原や湿田でえさを食べるのであるが,芦原はすでになく,田はすべて冬期には水がぬかれて,乾田となっている現状では,やむをえないことかもしれない。
 ともあれこの地で越冬するしかないハクチョウに毎年安心して越冬できる場所だけは残しておいてやりたいものである。

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