福島県教育センター所報ふくしま No.76(S61/1986.6) -018/038page
(6) 家族間の結びつきの強さ
(結合の強さを≡>=>…の順で表わす)A子の姉が母や祖母から強く支持されているのに比べ、A子は家族との関係が弱く、A子だけが家の中で一人ぼっちといえる。
(7) 養育態度
父は、A子の養育をほとんど母と祖母にまかせっきりにしており、父としての発言力は弱い。
親子関係診断検査によると、両親ともに拒否型、不一致型、更に母は、支配型、干渉型、矛盾型を示している。このことは、しばしばA子に対し一貫性のない叱責をしたり、干渉しすぎる母親の態度とよく一致している。
5.診断
姉に比べA子は、あまり手をかけずに育てられ、家族との接触が少かったため、家の中でいつも自分一人の孤独感があった。そして、母の支配が強いため、自分の行動に自信がなく、従って、対人関係も思い通りつくれなかったものと考えられる。
それに父の父性性の欠如もまた、A子のこうした対人関係を築く上でかなり影響したと考えられる。
このほか、父母の養育上の拒否、不一致、矛盾等の態度がA子の不安傾向を増大したと思われる。
以上のことが相互に関係し合って対人不安をきたし、不登校になったものと考えられる。6.指導方針(仮説)
当面は、登校刺激を慎しみ、無理に対人関係をつくろうとしないよう家族が気をつける。親は、支配的あるいは拒否的な熊度を改め、父の父性性を基調とする家庭生活をし、A子を中心とする会話に努める。学級担任は、自然な形で家庭訪問し、本人とのかかわりを強めるほか、級友を家へ立寄らせるなどして友人関係を強化する。A子に登校への意欲が見え始めたら、形成化法(段階的登校の指導)を試みる。7.指導経過
登校刺激をやめてから、A子の気持ちが落ち着き、夕方など閉じこもっていた部屋から庭へ出てくるようになった。特に、登校への緊張が解けてくる午後になってから、会話の交わせる姉の協カを求め、次第に対人関係を拡大していった。
母は、A子に対する支配や干渉的態度を改め、更に父の父性性発揮に協力した。父も熱心に問題解決を目指して積極的に養育態度の改善等に努力したので、温かみのある親子関係に変ってきた。
一方、A子は次第に学級担任と話せるようになり、級友の訪問や学校への関心が高まってきた。そこで、形成化法によって、自ら登校計画を立て、段階的に通学路における到達目標地点を伸ぱすようにした。初めは、途中半分ぐらいしか行かれなかったが、繰り返すうちに段々先まで行かれるようになり、次第に登校できるようになった。8.考祭
不登校の克服は、教師の親に対する積極的な働きかけや努カによって、養育態度や家族・本人をめぐる人間関係等が改善されるなど、教師のきめ細かい指導援助が最も肝心な決め手となった。また、再登校への意欲を生かし、段階的な登校アプローチを試み、不登校を克服した点が注目される。