福島県教育センター所報ふくしま No.77(S61/1986.8) -005/038page
師から与えられた知識を,生徒はただ受け取るだけという,従来の学習から脱皮できない姿を示していると思える。主体的に学ぶ意味を,生徒に常に訴える必要を感じた。
4 形成的テストの自己評価については,設問の意味を,テストの成績についてと曲解した者が多かったようである。すべての生徒に対して基礎基本を習得させ,成就感を与えようとの意図は,作問の失敗により達成できなかったが,下位の生徒の多くは,ある程度の成就感を得たことが読み取れる。
5 学習の活発さが不足している理由として,生徒は,学習方法の不慣れ,自ら取り組まねばならないことへの不満,この授業実践を公開授業として位置づけたことの影響を述べているが,このことは,学習方法の慣れによって解消できると考える。
6 学習での充実感については,上中下位の生徒のすべてが,良い評価をしている点が注目される。生徒の主体性を保障する授業の大切さを再認識した。
7 今後もこのような授業を継続したいかについては,生徒はおおむね予想どうりの評価をしている。この項目について,マイナス評価の10名について検討すると,次のようであった。
やることが多くまいってしまう2名,不慣れでとまどいを感じる2名,楽しく真剣にやったが今後はやりたくない4名であった。これらの8名は,充実感において3以上の自己評価をしているので,今後学習方法を体得すれば,評価はプラスに転じうると考えられる。残りの2名は,学習時間の不足,大学受験への不安を述べており,充実感もマイナスである。今回,この授業が,定期試験の直前に行われたという時期的な問題はあるが,これらの生徒とは,十分に話し合い,個別指導する必要があると思う。
5.おわりに
小学校社会科については,多くの実践に基づく書籍が刊行され,一種の教育書ブームを呈しているように見うけられる。その多くは,自ら考え正しく判断できる子供の育成をめざして,課題を見つけ,追求し,まとめるという一連の過程を,子供たち自身が取り組む課題解決学習の手法を用いた実践である。そして,その中には子供が生き生きと活動する姿が描かれている。しかし,中学校や高等学校では,残念ながら小学校での子供のような活動的な姿はあまり見られない。教師による知識注入型の一斉授業が,依然として主流をしめているのではあるまいか。中高全体を見通した社会科の教育内容の検討と並行して,社会科における方法の検討が,大切な課題であり,1小学校の方法に学ぶことが,今必要なのではなかろうか。
多様化した生徒一人一人に,豊かな教育の実りを保障することはなかなか困難である。授業は,教師一人に対しクラス四十数名の生徒で行われるのではない。教師一人に対し,生徒一人が対応するのである。そのためには,生徒一人一人を,授業の中で把握していることが必要であり,個別指導のための方法と時間を,授業の中に位置づけることが必要である。
今回の実践は,生徒一人一人が,主体的に授業に参加できるようになることを目標として進めてきた。検討の結果,この授業に用いた方法は,全体としては有効性が認められることがわかった。しかし,問題点も多く,今後改善すべき点も多く見られる。
成績が最下位に属し,普段の授業ではあまり顔を上げない生徒が,今回の授業を次のように表現している。「今回の6時間は.授業に参加している気がしたので良かったと思う」。このように感じる生徒が一人でも多くなることを願って,今後も研究を継続したいと考えている。
<参考文献>
「現代教育評価論」 梶田叡一 金子書房 昭和55年
「新しい教育評価の考え方」 梶田叡一 第一法規 昭和56年
「到達度評価の研究 その方法と技術」 橋本重治 図書文化 1981年
「社会科地理的分野の達成度評価」 篠原昭雄 明治図書 1983年