福島県教育センター所報ふくしま No.79(S61/1986.12) -029/038page

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個人研究

自閉症の子どもと共に


集団生活の中で変容したK男の指導

郡山市立行健小学校教諭  今泉 晴子


 < はじめに
 本校には,現在自閉症児(自閉的傾向をもつ者)が8名,その他脳性まひ,精薄児の計12名が入級しており,ふたりで担任している。
 この自閉症児との出合いは,今から7年前になる。このころは,他の学級ではこのような多動な子ども達を受け入れないのが一般的で,付き添ってきた両親の救いを求めるような目と,期待感やあどけない顔の子ども達を目前に見て,私は,誰かが面倒を見なければならないと思うようになった。
 以来,自閉症児に関する文献をあさり,講習会等に出席し,指導主事の先生方の御指導をいただきながら,夢中で指導にあたってきた。
 子どもとの接触をとおしながら子どもとの対応のしかたを学ばせてもらったがひとりひとりの症状の異なる子ども達に,その場その場において対応しながら,ひとりひとりに目をむけてやり,話しかけて,教師と子どものつながりや,集団生活への適応をはかっていこうと考えた。
 そして,今,その子ども達は,集団生活の中でお互いに友だちの名前を呼んだり,相手の行動に関心をもつようになってきた。
 まことに,遅々たる歩みであり,研究というよりは実践の積み重ねの記録にすぎないが,ここに,その歩みをまとめ,自閉症児と共に歩むことの悩みとわずかな変化に光明をもとめ,同じ悩みをもちながら指導にあたっておられる先生方への一資料としてお読みいただければ幸いである。

1.研究の主旨
 自閉症の原因がよくわからず,脳の器質的障害の疑いもあるといわれているが,一般的には,はっきりした指導法がないために,教師も親も,試行錯誤しているのが現状のようである。
 私は,ひとりひとり違う特性をもっている自閉症児の行動や,ことばなどを記録することにより遅々とした成長ではあるが,長期に渡る継続観察をとおしながら,より子ども達をよく理解し,指導の手がかりをつかみ,実践的な指導をつみ重ねていくことにした。

2.研究の見とおし
 ひとりひとりの子どもの特徴に応じて,自分の体験や,実践の積み重ねをとおして,継続的に,指導していけば集団生活の中で話しかけができるようになるのでないか。そのために次のことを行う。
(1)ひとりひとりの子どもの特徴をつかむ。
(2)ひとりひとりの子どもの特徴に対応する働きかけを,実践の中からつかみとる。
  ○ 興味のあることを十分にやらせる。
  ○ 話しかけを多くする。
(3)集団の中で遊ぶ回数を増やしていく。
(4)親の気持ちを理解すると共に,連絡を十分にして相互協力体制の中で指導にあたる。

3.実践の概要
 <K男のプロフィール>
 現在小学校3年生の男子で,1年生の9月17日に隣町より転校してきた。
 知能検査ほ,田中ビネ一式IQ65
 出産時は,特に異常がなかった。乳幼児の発育も標準的であった。ただ父親が帰ってきても,後をふりむかず反応がおそく,言語もおくれ,2才時に病院に相談。3才時に医師から,「自閉症」と診断される。この頃の行動特性は,「顔を見ない。呼んでもふりむかない。おちつきなく外へとびだし帰れなくなり警察の世話になる。気にいらないとパニックをおこすことが多かった。」との話である。
(1) 
本校入学前のK男のすがた

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