福島県教育センター所報ふくしま No.81(S62/1987.6) -002/038page

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特別寄稿

個性の伸長

前郡山女子大学短期大学部教授 長谷川 壽郎

長谷川 壽郎

1.今なぜ個性について考えるのか

 臨時教育審議会が、その第一次答申において、教育改章の基本的考え方の第一に、「個性重視の原則」をあげ、つぎのように述べている。

  今次教育改革において最も重要なことは、これまでの我が国の教育の根深い病幣である画一性硬直性、閉鎖性、非国際性を打破して、個人の尊厳、個性の尊重、自由・自律、自己責任の原則、すなわち個性重視の原則を確立することである。
 人間の生命は、過去・現在・未来と結ぱれており、また、各個人は、家庭、学校、地域、国家などの各レベルにおいて複雑な相互依存関係のなかに生きている。
 個人の尊厳、個性の尊重の考え方の根本にあるものは、この時問・空間という縦・横双方の広がりのなかで、各個人はそれぞれ独自の個性的な存在であるということ、また、個性的な個人が集まって集団の活力を形成しているということである。
 個性とは、個人の個性のみならず、家庭、学校、地域、企業、国家、文化、時代の個性をも意味している。それぞれの個性は相互に無関係に孤立しているのではない。真に自らの個牲を知り、それを育て、それを生かし、自己の責任を貫くもののみが、最もよく他者の個性を尊重し、生かすことができるのである。(中略)
 このように自他の個性を知り、目他の個性を尊重し、自他の個性を生かすことは、個人、社会、国家間のすべてに通ずる不易の理想である。
 個性重視の原則は、今次教育改箪の主要な原則であり、教育の内容、方法、制度、政策など教育の全分野がこの原則に照らして、抜本的に見直さなけれぱならない。

というのである。
 ところで、筑波大学の加藤隆勝教授は、つぎのように論じている。

個性重視の主張は、もちろん今に姶まるものではない。むしろ近代教育を共通に貫く理念である。わが国でも特に戦後は自主性の育成や個性の伸長が叫ぱれ、一人一人を生かすことが強調されてきた。昭和52年の改訂のねらいの中にも「国民として必要とされる基礎的・基本的内容を重視するとともに児童生徒の個性や能力に応じた教育が行われるようにすること。」があげられている。
 それなのになぜ、いま個性の重視か、ということになるが、(中略)わが国の教育は画一性、統一性が強く、(上述臨教審が指摘するような病理的状況があって…筆者加筆)個牲重視の理念と現実の間には大きな落差があること、また熱心な教師たちは一人一人の子供たらを生かす指導のあり方を実に丹念に追求し、成果を蓄積してきているのであるが、しかし、この場合も一斉指導の中で個人差に十分配慮するという次元にとどまっていたことによるのではないだろうか。そして子供たちは幼児の頃から勉強勉強と学習を押しつけられ、中学・高校に入ると受験体制のもとで偏差値による序列づけをされる。これは人間としての自尊心を傷つけ、自発的、自主的に学ぶ意欲や喜びを放棄させる結果を招いている。(個性重視の今日的意味、初等教育資料、昭和61年7月号、No.485、P4から引用)

 

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