福島県教育センター所報ふくしま No.81(S62/1987.6) -004/038page
4.個性の伸長のために
(1)教育実践発想の在り方
1.個性の伸長は子ども自ら行っていくのであり、その子どもが自らの個性の十全な実現を果すようにその子を支え励ましていくのが教育実践でなければならない。このとき、「人間は本来自覚的能動的な存在であり、主体的に自己を形成していく存在として認識されなければならないということ、及び、人間の自発的成長可能性に深い信頼をおくということが前提されている。しかし、放置しておいても子どもは自然にのぞましく成長するということを意味するのではない。それには多くの限界がある。したがって創造的発展や成長のためには新しい価値や方向を示唆し気づかせ、積極的に学ばせていくことが必要で、そこに教師の役割がある。なお、個性は普遍的人間性の基礎の上に立つ個人の独自性を意味する以上、国民に必要とされる基礎的・基本的内容の学習の重要性は変らない。むしろこの学習を基にして豊かな個性の開花が期待されると言えよう。」(「 」内、前掲加藤教授論説参照)
2.個性の教育において最も重視すべきは、一人ひとりの内面世界を育てるということであり、その過程においてその子なりの内的な原理が育っていくよう援助することである。そのためには、最終的には、自分自身の可能性を信じ、他の人との基本的通底を信じ、自己の存在と生活の意義と使命を信じるような自己概念が育っていくようにしなければならない。こうした意味での自己概念こそ、個性そのものを支え、貫く内的原理となるものにほかならない。(梶田叡一、個性の教育とは何か、児童心理、金子書房、昭和62年3月号、参照)
個性の伸長にかかわっては、こうした発想が教育の実践に当って、まず重要であると考える。
(2)個性の伸長にかかわる児童・生徒の理解について
子どもの個性にかかわって、その子どもを十分理解するということは、きわめて困難なことではあるが、あくまでも努めなければならない。教師と教師、教師と両親と、協力し合って、その具体的な、かけがえのない、その子どもについて深く理解しようと努カを惜んではならない。その子の部分部分の傾向を理解したからとして、その子について理解したことにはならない。その子の知識・技能・態度(感情・意志の状況をふくめる)・健康等が現にどのように身についているか、そのことにその子なりにどうかかわってきたか、その現況がどうしてそのようであるのか、どう解釈し、診断し、どう処遇すべきか等の手続きを通してはじめて一応の理解があらわれるとされる。しかし、理解が真に成り立つためには、愛に根ざす人間関係がなければならない。(3)教育方法展開についての留意点
総合的に言って、3に記述された内容の具体的実現の方法的工夫が求められているわけである。
- 一人ひとりを大事にしなけれはならない。一人ひとりを生かさなくてならない。こうしたねらいを達成するには、個別指導、または個人指導でなければならない。それにつきるとするならばあやまりである。個性は,集団の中にあって確かになっていく面をもつのであるから。
- 生活指導で、自我の確立、自己実現の方向へ正しく導く方途を、その子に即して講じなければならない。(自己教育力育成の方向でもある。)
- 学習指導においては、自ら学ぶ能カを高める援助をその子に即して工夫し、次第に自信をつけていけるように援助すべきである。
- 自己評価能カを育て、自分なりに自己向上の途を歩み出せるようさせる必要がある。
- (1)の2に記述したような自己概念を自らに形成することができるように、あらゆる面で、その子を援助するその仕方を工夫する必要がある。
とくに、自己の認知・自己向上の意欲・自己に適切な方法の駆使・自己充実の体験等の遂行が十分に行われるように,生活指導(生徒指導)、学習指導、教育評価等の各教育方法機能が発現するよう、綿密な配慮がなされなければならないのである。ATIとか個人差に応ずるとか個別化とか、いずれも配慮のあらわれであって、方法的配慮を目的と考えちがいをしてはならないことは言うまでもないことであろう。(62・5・10)