福島県教育センター所報ふくしま No.81(S62/1987.6) -018/038page
プロジェクト研究報告
自己教育力を育成するための
学校教育の改善に関する実践的研究(その1)
科学技術教育部
1.はじめに
昭和58年11月、中央教育審議会教育内容等小委員会で、つづいて、昭和61年4月に臨時教育審議会の第二次答申第二部「教育の活性化」の中で『自己教育力の育成』について提唱された。
当教育センターでも昭和60年10月よりテーマを『自己教育力を育てる学習指導法の改善に関する研究』として研究を始め、昭和61年4月臨教審の第二次答申の趣旨をふまえ、文部省より『自己教育力を育成する学校教育の改善に関する実践的研究』として研究指定を受けることとなった。
その後、自己教育力育成研究委員会を設け、自己教育カの育成に向けて「自己教育力が備わった状態像」の設定のための理論研究に始まり、これをもとに研究協力校10校(小学校3校、中学校3校、高等学校4校)の協力を求め、計画的、継続的に教育活動を行ってきた。
ここでは、研究の趣旨、構想や自己教育カが育成された状態像の設定などについて述べ、次号より、小学校、中学校、高等学校における研究実践、最後に61年度における研究のまとめと62年度における研究の成果の順で5回にわたり記載する。
2.研究の趣旨
今日、自己教育力の必要性が叫ばれるようになった背景には、近年における学校での問題行動多発の現状や、目まぐるしく複雑に変化する社会への対応の必要性をあげることができるが、本来、自己教育力を育てることは、子供の成長過程に応じて学校や家庭及び社会が「望ましい人間形成」の視点からそれぞれが当然担うべきことであって、教育本来の根本原理であると言える。また、教育実践に携わる全ての者が改めて人間性豊かな児童生徒の育成を基本理念とし、『主体的に考え、正しく判断のできる人間』を育てるべく、真剣に考え直す時期に来ていることは事実である。さて、自己教育力の育成が提唱されて以来現在まで多くの論文が出され、多くの提言がなされている。この主なものをあげれば、1.自己教育力を育てるには、基礎・基本の徹底、個性と創造性の伸長、文化と伝統の尊重に視点をおき、主体的な学習意欲・意志の形成、学習の仕方の能力及び激しい社会の変動での望ましい生き方を養うことにあるとすること、2.教育の終局のねらいは、「人間として自立すること」であるとし、自律性・決断カ・洞察力・判断力が養われることで成立すること、3.自己教育力とは、「他人から何も言われなくとも自己の能力を伸ばそうとする潜在力」であり、このためには、内発的動機づけを強めて自己啓発力を高めることであるとすること、4.学力は、『学んだ力』、『学ぶ力』、『学ぼうとするカ』の3要素によって成立するとし、学習到達度としての学力より、学習可能性としての学力観に指導の力点をおくこと、等々が報告されている。本研究を進めるにあたっては、前述の1〜4を研究の基本的方向としてとらえ、最終的に、次のように研究の柱を定めることとした。すなわち、研究の最終到達目標を 「主体的に変化に対応できる個性的な人間の育成」 におき、その下位目標として 「自ら学ぶ意志・態度・能カの形成」 とし、これを支える要素として 「学習意志の形成」、「学習の仕方の習得」、「生き方の探究」 の3つをあげ、更に、それぞれの要素を成立させるために、 12の達成目標 を設定した。本研究は、その具現化へ向けて、県内の10の研究協力校で教育実践を行い、自己教育力の育成を目指したものである。