福島県教育センター所報ふくしま No.88(S63/1988.10) -033/038page

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研修者の感想

学校カウンセラー講座(中級)を受講して

福島市立渡利中学校 教諭 阿 部 美智子

1.はじめに

 昨年度,前後期6日にわたって行われた学校カウンセラー講座(中級)を受講した。初級で学んだ教育相談の理論をさらに深める内容として,行動療法や自律訓練法などの講義や演習,「感受性訓練」(明治学院大学教授 神保信一氏),「児童・思春期の精神医学」(県立医科大学助教授 八島祐子氏)と題しての専門的な立ち場からの示唆に富んだ講義など充実したものであった。そうした講義のほかに,相談部の先生方の姿勢からじかに学んだカウンセリング・マインド,他校の先生方との交流など,収穫の多い講座であった。なかでも特に印象に残ったロールプレイングとカウンセリングの実習についての感想を述べてみたい。

2.実習をとおして学んだこと

 ロールプレイングの実習では,子どもたちの生活場面の問題を即興的に劇化し,演じた役割を通して感じたこと,観客として感じたことを話し合った。はじめは恥ずかしかったが,なごやかな雰囲気のなかで,だんだん自然にふるまうことができるようになった。

 私は「授業中,手紙をまわしたことが先生に見つかり注意されるが,事実を認めず,反抗的な態度をとる男子生徒」の役を演じた。演じているうちに,いつのまにか私は,前年度に受け持ったA男になりきっていた。先生の注意に対して「何にもしてねえで。」と言いはり,先生とのやりとりのなかで興奮していった。(先生役の)先生は,悪いことは悪いのだときちんと認めさせようという熱意で,どこまでも自分に迫ってきた。が,劇のあとのふりかえりのなかで,担当の先生の質問に答えながら,自分の気持ちが,さっと変化した瞬間があったことに気づいた。それは,「どうしてもまわりに迷惑をかけるのなら,出ていきなさい。」と先生に言われた時だった。うまく言葉には表現できないのだが,先生と自分との間の糸が,その言葉によって切れた,という感じだった。そしてその時私は,かつて自分が同じ言葉を言った時のA男の感情を体験的に理解することができたように思われた。

 このようなロールプレイングを,生徒との望ましい対応の仕方を探っての職場の研修に,相手の立ち場に立って考えさせる学級指導や道徳に使っていきたいものだと思った。

 また,カウンセリング実習でも,その技法を体験的に学習することができた。前期,相談部の先生のカウンセリングから,相手の気持ちを共感的に理解し,支えていくなかで.ラボールが形成されていくのだ,ということを学んだ。しかし,いざ現場に戻ってみると,相手を受容し,支持するということは,かなり難しいことであった。受容してしまえば,生徒の問題行動を認め,かえって助長することにつながりはしないか,という不安が先に立つ。そして,何とか生徒を変えよう,教えてやらなければ,と思うあまり,生徒の言葉に対して,すぐに意見を述べ,生徒は黙ってそれを聞くという形に終わってしまうこともしばしばであった。共感的理解など甘いことを言っている場合ではないという声も聞かれるなかで,カウンセリングについてもっと学びたいという思いで参加した後期の講座であった。

 そこで,カウンセラーが,柏手の言葉や感情をすぐに批判したり評価したりせず,しっかりと受容し,支持することで,気持ちを素直に表現させ,表現をとおして,それまで気づかずにいた自分の気持ちをはっきり認識させてやることもできるのだということを改めて確認することができた。

3.おわりに

 この研修をとおして,教師としての自分自身の多勢を見つめ直す機会を得ることができたと思う。

 迷いながらの日々の実践ではあるが,しなやかな心を大切にしながら,教室の一人ひとりの子どもと交流していきたいと考えている。


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