福島県教育センター所報ふくしま No.89(S63/1988.12) -018/038page
たり本を読んだりしている。放課後,友達が来ると笑い声を立てて遊んでいる。
どうして学校に行けないのか,分からない。転校でもさせれば,気分が変わって行けるようになるだろうか。
圭子は,ほとほと疲れ果てたように大きなため息をついた。カオリはといえば,ただ黙って母親に寄り添うように話を聴いていた。
母親の圭子は,30代半ば,なかなかの知的な美人です。カオリの方も,至って素直そうな普通の少女です。どうして,不登校になってしまったのでしょう?
2回目の面接には,父親,浩二氏にも来て頂きました。氏は,一流コンピュータメーカーに勤める優秀なエンジニアです。
ところが,面接が始まってまもなく,佐藤夫妻は,互いにののしりあいを始めてしまったのです。夫は,最初から不機嫌そうに,妻の過保護・過干渉がすべての原因なのだと主張します。一方,妻の方も,夫の無関心・無責任が家庭を台無しにしているとして,激しく追求します。
その間,カオリはといえば,眉をしかめ,神経質そうに鼻をピクピクさせて,不安気な表情です。ただし,佐藤夫妻はそれに全く気付かない様子なのです。
循環する因果関係―「母原病」は正しいか?
浩二氏が指摘するように,孝子の養育態度には多分に過保護・過干渉の一面がありました。それでは,そのせいで,カオリは耐性の乏しいわがまま娘になり,また母親に対する分離不安から学校に行けなくなったのでしょうか?これを分かりやすくするために,図式化してみましょう。
このように,1つ(ないし複数)の原因から1つの結果が生まれるという考え方を,直線的因果関係と呼びます。一時流行した「母原病」という考え方もこのような見方に立っています。
しかし,家族カウンセリングでは,全く異なった考え方をします。母親の過保護は,父親の養育無関心や娘の病弱さとむしろ相互的な関係にある。母−父−娘の三者の関係は,互いに原因であるとともに結果でもあると見るのです。
これを循環的因果関係といい,図式化すると下のようになります。
このように考えますと,母親が悪い,いや父親が悪い,といった“犯人さがし”は,あまり意味のないものになります。それよりも,家族関係を見なおし,悪循環を断ち切ることの方がはるかに大切なことになってきます。
ムンク 「病室の死」から(部分)
親もまた,問題をかかえて生きている
驚いたことに,夫妻は大変似通った家族関係のなかで育っていました。堅実で,やや保守的な家庭環境−ワンマンな父親,じっと耐えながら家事一切に専念する母親・・・・。それはまさしく