福島県教育センター所報ふくしま No.89(S63/1988.12) -019/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

古き良き日本の家庭の1つのタイプでした。ただ異なっていたのは,浩二氏がそれを当然と受けとめていたのに対し,圭子は時折そっと洩らす母親のグチを聴きながら育っていたのです。

 カオリが生まれて2,3年後,浩二氏にも1つの転機がやってきました。社内プロジェクトチームの一員として新製品の開発に従事することになったのです。しかし,それは同時に,家庭を省みる余裕をともすれば失いがちなことでした。

 互いに疎遠になりつつあることに危機を感じても,ロを開けば,いつしかトゲのある口調となり“売り言葉に買い言葉”の応酬・・・・。気がつくと病気がちのカオリが発熱し,あわてて看病する圭子に,「君が過保護すぎるから」と,夫の追いうち―――。夫婦関係は,まさしく危機的な状況にありました。

 1Pという考え方

 カウンセリングの進展とともに,“雨降って,地固まる”のたとえのように,佐藤夫妻の夫婦としての心の結びつきは一層確かなものになっていきました。互いに相手をいたわり,支えあいながら,カオリの心を理解し援助していこうという雰囲気が生まれてきたのです。

 そして,それに呼吸を合わせるかのように,カオリは,再び学校に行き始めました。友達と楽しそうに話ながら通学するカオリに,不登校のかげりはありません。

 最終面接が終了して,帰ろうとする夫妻をカウンセラーが送ろうとすると,浩二氏が立ち止まり,「でも,どうしてもわからないんです。」と言います。「どうして,あの子が不登校になり,そしてまた,突然治ってしまったのか・・・・まるで,私ら夫婦の危機を察していたかのようにしか思えないんです。でも,一体そんなことが・・・・そんなことがありうるんでしょうか?」

「あるいは,―――そのとうりかも知れませんね。」

 カウンセラーが答えますと,夫妻の眼がうるみ大粒の涙があふれ落ちました。

―――。

 家族カウンセリングでは,問題を発症させている成員を,IP(Identified Patient)と呼んでいます。

 家族によって「患者」とみなされた者は,実は単なる患者ではなく,家族関係のバランスを保つために発症し,そうすることによって家族システムの存続に役立っているのだと考えるのです。

 このケースでは,家族が離れ離れになろうとする危機を,カオリは自分が不登校になることによって懸命にくいとめていたものと,考えることができます。

 家族システムについて

 家族カウンセリングの基本的な考え方の1つに,家族システムがあります。

 これは,フォン・ベルタランフイ(墺)が1945年に発表した「一般システム論」を応用・発展させた考え方です。

 どのような家族であれ,家族関係は,システム力動として表現することが可能です。

 例えば,佐藤家について,カウンセリング前と後とを下図のように書き表わすことができますが,これはそのまま治癒のプロセスになっています。

図
 *家族システムの書き方(読み方)
1 家族間の情動やコミュニケーションの結びつきを線で結ぶ。結合の強さは下図参照
線 結合の強さ
1 □は男性で,大は父親,小は子供,○は女性で,大は母親,小は子供。
 なお,↑(右斜め向き矢印)のしるしは,IPをあらわす。

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。