福島県教育センター所報ふくしま No.89(S63/1988.12) -020/038page
健康な家族・病める家族
では,どのような家族システムが健康あるいは病的なのでしょうか。
リッツ(米)は, 健康な家族の条件 として, 夫婦連,世代間境界,役割,志向性 などをあげています。つまり,夫婦間の信頼関係があり,親と子の明確な区別があって,家族の役割や共有する価値観がある家族のことです。
家族システムで言いますと,下のaの「機能充実型」になります。
これに対して,病める家族には様々な型があります。
bは「分離型」で,父と娘,母と息子が病的に結びついています。このようなケースでは,娘が「思春期やせ症」になることがあります。母を嫌うあまり,女性になることを拒絶してしまうのです。息子もまたいつまでも母子分離できません。
C,dは,「ひずみ型」の一種です。
Cは,あるいは現代日本の家族関係の病理の一典型と言えるかもしれません。家庭における「父親の不在」その反動として,子供を唯一の生きがいとする母親の過剰な関わり―――。
問題行動を起こす子供の家族システムに,もっとも多い型でもあるといえます。
また,dでは,子供の一人がはじきだされようとしています。この子供は,反抗し問題行動を起こすことで,家族の注目を集めようとすることでしょう。それが結果的にこの家族システムをさらに強めて,自らの孤立を深めてしまう悪循環であったとしても,そうしてしまうことでしょう。
eは,「解体化型」です。こうなると,もはや家族とは言いがたくなります。
おわりに――学校現場と家族カウンセリング
以上,家族カウンセリングの基本的な考え方について紹介いたしました。
ただ,心理療法としてまだ30年ほどの歴史しかなく,日本においてもある意味で模索の段階であると言えます。また,今回は特に割愛いたしましたが,方法,技法とも独特のものがあり,その体得はけっして易しいものではありません。
にもかかわらず,今後家族カウンセリングの考え方は,学校教育相談のなかに積極的に取り入れていく必要があります。なぜなら,児童・生徒の問題行動の背景には,必ずといって良いほど家族関係の問題があるからです。
担任,あるいは相談係という立場で,家族の問題に踏み込むにはなお多くの抵抗が予想され,慎重さや自重が要求されることでしょう。しかし,例えば母親の相談相手になる(カウンセリング)だけでも,家族関係は確実に変化していくはずです。また,これまで学んできた親子関係診断テストやエゴグラムを活用することで,より客観的に洞察を深めていくことも可能です。
この問題については,身近で可能なことから経験を積んでいくことが,大切なのではないでしょうか。
また,この機会に,ぜひ御自身の家族システムを書かれてはいかがでしょうか。
きっと何かに気付かれると思います。そして,そのことによって家族関係に小さな明るい変化がもたらされるならば,それは家族カウンセリングの目指すものの第一歩に他ならないのです。
参考文献「母子癒着の病理」山田和夫 大和出版
「家族関係を考える」河合隼雄 講談社
「ファミリー・カウンセリング」岡堂哲雄 有斐閣