福島県教育センター所報ふくしま No.89(S63/1988.12) -032/038page
これに記入させることによって,創作の意図を明確にさせ,主体的なとりくみを促し,表現上のつまずきをチェックし,個々の生徒に対し,適切な助言を与えるための一助とした。従来の方法では,積極的に質問してくる意欲のある生徒に指導が偏りがちであったが,このカードの活用により,進度の遅れがちな生徒や,表現上の創意工夫を必要とする生徒に対しても,事前に適切な助言を与えることができ,指導の効果が上がった。
(3)生徒の創意工夫をひき出すための毛筆以外の用具による表現の試み
毛筆で書いた作品の他に,毛筆にかわる素材として,自ら工夫した,すすきの穂・草の茎・藁・新聞紙・ハブラシ・頭髪・‥・‥などを用いて表現させた結果,身近な所にあった用具の意外な発見に大層興味を示し,書線美や,用具と創作の関連及び効果について理解を深めさせることができた。
(4)成就感を味おらせるための作品の裏打ち及び額装仕上げ
「紙そのままの作品と,裏打ちし額装した作品とでは,同じものでも逢ってくる。自分が何か芸術家になったような気がした。又何かの機会にやってみたいと思う」とか,「やる前は裏打ちのことはこんなにきれいになると思っていなかったので,紙がきれいになっている時は本当にうれしかった。こんなに美しくなるのだったら,もっと表現を工夫し努力すればよかったと思った」という生徒の感想に見られるように生徒は興味をもって協力しながら作業にとりくみ,自己の作品に対する愛着を深めた。
創作表現の達成感.・成就感を味わわせる上から,このような形で作品を完成させたこどは大変効果的であった。
4.おわりに
指導法改善の視点から4つのねらいを定め実践したが,ねらいは概ね達成できた。
書は文字を素材とする以上,文字本来のもつ意味を無視することはできない。「こういう文字をこんなふうに表現してみたい」という意欲をもたせるために試みた視聴覚教材,「サウンド・オブ・ミュージック」の映画鑑賞によって,「良いものを与えれば,生徒はその良さがわかる」という手応えを実感するとともに,創作の母体となる「素材の吟味と豊かな発想」を導くことができたことは今回の試みの大きな収穫であった。
生徒作品2〜3紹介し結びとしたい。
「鐘」 (隷書体)…45cm×65cm ・ ブラシによる表現隷書の直線的で安定感のある力強い表現が,硬く毛先の短い用具によって効果的に表現され,鐘の響きを巧みに書造形化している。
「愛」(篆者体) 34cm×45cm
篆書のもつ造形美に現代的な線美を加味した作品。草の穂で書いた方(下段)は,線に微妙な変化が生じ,点画が単純化され抽象的な効果が生まれた。