福島県教育センター所報ふくしま No.90(H01/1989.2) -015/038page
A先生の努力にもかかわらず,落ち着きのなさは相変らずでした。しかもA先生が熱心にかかわればかかわるはど,一郎はA先生を避けるようになり,陰では友達をいじめるようにもなったのです。
このままでは更に悪化すると考えたA先生は,自分の抱いている心配を校長先生に話し,専門機関へ相談することについての指導を仰ぎました。校長先生は,「子供の将来のことを考え,学校側の押しつけにならないように注意して,両親とよく相談をしてみなさい。」と話してくれました。
<> さっそく,A先生は両親と会い,今までの指導の経過と今抱いている心配を素直に話し,「これから一郎君を指導していく上で大切なことです。何でもなければそれでいいし,私の心配するようなものであれば早いに越したことはありません。私も一緒に参りますのでいかがでしょうか。」と熱心に説いたのです。初めは驚いた両親も,日ごろ信頼を寄せているA先生の熱意に動かされ,専門機関での相談を承知したのでした。相談の結果は,ADD(注意欠陥障害)の疑いがあるとのことで,専門医に診てもらうようにと勧められたのです。
専門医においても,ADDという診断であり,以下のような説明をして下さいました。
<ADDの基本的特徴>
・知的には正常範囲にあり,軽い場合には脳波に異常はみられないことが多い。
・落ち着きがない。注意の集中が持続しない。情緒不安定。衝動的行動が目立つ。
・ しばしば行動障害,学習障害,運動障害,認知障害を伴う。A先生は,このことがあってからは,以前のような気負いがなくなり,一郎をじっくり見れるようになってきました。
また,「一郎の行動は,本人が無意識のうちにしてしまっている。」との理解をふまえ,指導の基本についての助言を受け,専門医との連携・協力のもとに,次のようなことに留意しながら指導援助を進めていったのです。
・一郎は,月一回の専門医の診察を受ける。
・年齢とともに発達する可能性を信じる。
・感情的にしからず,わかるまで繰り返し具体的に教える。
・比較的集中させやすい,個別指導が効果的なので,授業や生活場面では,可能なかぎり取り入れる。
・できたこと,努力したことを認め,ほめる機会を多くし,劣等感,狐立感,疎外感を持たせない。
・学年会で一郎についての共通理解を図り,同一歩調で指導に当たる。
このように,学校−家庭−専門機関の連携による指導の結果,一郎とA先生の関係は良くなり,表情もぐっと明るくなってきました。友達をいじめるようなこともなくなり,人の話に耳を傾けることも,以前よりはずっと多くなってきました。
−A先生が一郎君の指導に成功した要因−
精神医学の基礎知識を活用し,資料の収集に当たった。 専門機関の相談を受けるよう両親を説得できた。 専門医の診断により根源をきちんと把握できた。 基本的な対応を知り,早期に症状に合った対応ができた。 学年での共通理解を図った。 専門機関との連携の必要性を判断し,その助言のもとに指導を進めた。