福島県教育センター所報ふくしま No.92(H01/1989.8) -003/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

生徒に程度の違いはあるが,全体的にみられる傾向ということができる点である。いいかえるなら登校拒否におちいるのは,特別な児童生徒ではなく,普通一般の児童生徒もその可能性を持っているのではないかということである。

3.今日の児童生徒の成長過程

 今日の児童生徒の性格行動上の傾向が,以前に比べて違うとするならば,実態,その成長過程での違いについて考察する必要がある。紙面の都合もあり,論述することはできないが,その成長過程での違いを列挙するならば次の通りであろう。

 ・乳幼児期の親子関係……愛情要求の満足や情緒の安定の問題

 ・核家族化,少子家庭化……家族関係,対人関係での経験の問題

 ・家族(家庭)文化の変容……しつけの問題

 ・マスコミ文化の家庭への闖入……家庭生活,子どもの生活や意識への影響

 ・地域社会の伝統や文化の変容・・・・地域社会,近隣社会と家庭の結びつきの変容(子どもと地域とのかかわりの問題)

 ・子ども社会の喪失……遊びの変容→遊びの経験,特に心と体をぶっつけ合う子どもの経験不足

 ・豊かな物質生活……生活の場での選択時の豊かさ→興味・関心,容易さを求める生活等が考えられる。

4.今日の子どもたちと学校

 科学・技術の急速な進歩に伴う産業経済の発展は,社会の複雑化,多様化を促し,同時に家庭生活をも大きく変えるに至った。上述の子どもの成長過程が以前に比べて違ってきたということも,今日の急速に変貌しつつある社会そのものをぬきにして考えることはできない。

 ともあれ,以前に比べて対人関係における経験の不足や偏りをもっ子どもたち,豊かな生活の中で興味や関心のあるものを選んできた子どもたち,反対に,いやなことはしないで済んできた子どもたち,しかも,比較的ゆるやかなしつけの中で,明るく,自由に,のびのびと育ってきた子どもで

ある。その子どもたちにとって,学校は以前の子どもたちとは違ったイメージでとらえられているということができる。

 今日の子どもたちにとって,生活するということは選択することである。マンガを読む場合も,食べ物をとる場合も,テレビを見る場合も,そして遊ぶ場合も選択することから始まる。しかし,学校は子どもにとって無選択の世界である。このことが実は子どもたちにとって必ず異和感を感じ,適応しにくさを感じているのである。具体的には

 ・学校生活の時程やルールヘの不適応感

 ・不特定多数の友人や集団への不適応感

 ・学習や宿題,あるいは係・活動への不適応感

 ・教師への不適応感(以前の子どもに比べて,

大人との対人関係,近隣社会との結びつきが希薄になったため親以外の大人とのかかわり合いが少ない。)

等,案外,強く感じていることに着目しなければならない。そこに今日の子どもへの学校,特に担任としての対応上の課題があるといえよう。

5.学級担任の子どもへの対応

 以上の様な,今日の子どもたちの一般的傾向を考慮した担任としての対応は,従来にもまして,個々の子どもの理解とそれにもとづく対応が求められる。学級担任としての基本的な課題をあげるとすれば次の通りである。

1.児童生徒の理解を深める努力

2.児童生徒の相互理解,相互交流を図る指導の工夫一友人関係を豊かにしていく指導

3.生き生きした授業の工夫と,個別指導の徹底

4.父母との連携・協力関係を高める工夫

等である。そしてこれらの課題実現のためには,個々の教師のカウンセリング・マインドがどうしても必要となるのである。

 今日の子どもたちの変容を動かし難い事実としてとらえ,その上でどの様な教師としてのかかわり合いが,子どもの健全な成長,発達に資するか,その吟味・検討の態度こそ,登校拒否の予防や,早期発見,初期対応を効果的にすすめる基盤であることを銘記したいものである。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。