福島県教育センター所報ふくしま No.92(H01/1989.8) -005/038page

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所員研究 一(中学校理科)

自己教育力を高める理科の教材開発


科学技術教育部 大室 幹男


I はじめに

 現在の学校教育では「個性重視の教育」が強く叫ばれ,同時に「自己教育力」の育成が重視されてきている。

 自己教育力を高めるための理科教材は,これまでの「教える」ための教材ではなく,児童・生徒一人一人が「自ら問題を見い出し,自ら探究して解決を図る」教材でなければならない。また,その過程を通して児童・生徒一人一人が自己教育力を身に付けるようにしたい。

 そのことをめざした標記の主題を設定し,身近にあって安価な素材を活用した自作教材の研究・開発を行ってきました。

II 自己教育力を育成する理科教材の在り方

 (1)現在の学校の実態に即した教材開発を考えると,つぎのことが必要であると考えられる。

1.安価に,そして容易に多量の自作ができ,原則として児童生徒一人一人が活用しながら自然を探究できるものであること。

2.できれば完成品でなく,更に生徒が創意工夫を加えることができるものであること。

3.だれでも使用できる安全性があり,かつ,児童・生徒一人一人が個性・能力に応じて使用できるものであること。

4.児童・生徒に過重の負担をかけないものであること。そして,できるだけ短時間で結果が得られ,探究学習の成就感が得られるとともに,たとえ,失敗しても容易に再実験ができるものであること。

III 研究実践内容

1.中学校理科第一分野「エネルギー教材」

「プラスチック製の使い捨て注射器を用いた位置エネルギー実験器』

(1)背景とねらい

1.重力による位置エネルギーは自然界にあるエネルギーとしては最も身近であり,基本的なエネルギー概念となるものである。

2.実験内容は安全であり,学習の見通しも持たせやすいので,一貫した自然の原理を探究させ,一人一人の科学的な思考力,判断力,表現力を自ら高める能力・態度を身につけさせるのに適した教材であ  る。

3.現在は「くい打ち式位置エネルギー測定器」として市販されているが,高価であるため,生徒実験用として6〜10台有している学校は少ない。

4.そのため,プラスチック製の使い捨て注射器(1個33円程度)を用い,生徒一人一人に自作させながら探究させる自作教材を開発した。

5.つくりと使用法は非常に単純であるため,それだけ生徒一人一人が自己の創意工夫を生かす余地が多く,生徒の自主的・主体的な学習態度の育成に活用しやすい。

(2)つくりとはたらき(次ぺ一ジ参照)

1.5cm3のプラスチック製の使い捨て注射器を用いる。

2.図のように注射器の上方に糸をとりつけ,糸を持って任意の高さから垂直に自由落下させる。

3.注射器が落下して着床すると,その注射器自身の高さと重さによる位置エネルギーによって,中のピストンが上昇する。これは,注射器のゴムピストンとシリンダーとの摩擦により位置エネルギーに相当したところまで動いて止まる。従って,ピストンの移動した距離に摩擦力を乗ずると位置エネルギーを求められる。

4.鉄のワッシャー(1枚10g)をシリンダーの外側につけ,任意の重さに変える。

5.注射器の底辺部に板目表紙で作った,直径約6pの円板をとりつけ,注射器を落下させたとき,着床後の転倒を防ぐようにする。


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