福島県教育センター所報ふくしま No.92(H01/1989.8) -017/038page
の約束で時々電話を入れることにする。(この間,勉強のあせりを盛んに訴える。)(両親祖母の対応は落ち着いたようだ。)
11月7日 第8回担任家庭訪問(昼休み時)起床時刻等良好とのこと。制服も朝に着用するように指示する。(素直に理解する)(以後の取り組みの詳細は略)
そしてA君は
学校の意欲的な取り組みにもかかわらず,二学期内の登校はありませんでした。
しかし,家庭の理解のもとに,A君が自分自身をよく見つめるようになり,登校こそしないものの,内的なエネルギーの高まりを感じられるようになっていました。
そして,三学期の始業式の日,4ヵ月ぶりに登校したことを皮切りに,保健室登校をし始めるようになりました。2月になると,担任の授業(A君の好きな美術)を中心に学級へも時々顔を見せるようになっています。まだまだ油断はできませんし,A君の友人関係を活用するなどの方策を検討しながら,今後もさらにより充実した指導援助を続けていくことにしました。
本事例から学べること
S先生は,以上の取り組みを,反省を含めて笑顔で話してくれました。しかし,「方法的には失敗だった」というS先生の話の中にも,私達が学ぶべき点は多く見つけられます。
組織的取り組みについて
実際の取り組みは,一見,学級担任のみが行っているように感じられますが,その背景に学年会が存在しています。教頭先生や生徒指導担当も参加しての学年会で共通理解を図ったことが,学級担任の取り組む姿勢に,自信となって表れています。言い換えれば余裕を持って取り組めたわけです。
また,A君が登校したとき,万が一,実態を理解していない先生が一人でもいて,「甘ったれるなよ」とか「意志が弱いね」と言ったとします。その一言」が学年担当の先生方の今までの苦労を台無しにしてしまう場合も考えられます。
指導方針と計画性について
S先生の学年では,問題が顕在化したと思われる時点から「指導援助の方針」,いわば指導計画を作成して取り組みがなされました。
たしかに本事例では,当初の強い登校刺激が失敗に終わりました。このような強い登校刺激は悪くするとA君をより落ち込ませてしまったかも知れません。しかし,学年全員による反省の後,「指導方針の修正」をするなどの柔軟な姿勢は学ぶべきことではないでしょうか。
また,A君の指導に当たっている学年の先生方が,積極的に生徒指導・教育相談などについて研究していることが伺えます。それが,指導組織や資料収集などに表れていると思われます。日頃から文献研究や研修会への参加などをしておくことが,計画作成などにも反映してくるように恩います。
家庭への働きかけについて
本事例では,本人や家族とのラポール(信頼関係)形成を重視していることが十分に伺えます。日頃から「開かれた学校」というイメージを保護者が持っているからこそ,ある程度,家庭でのA君へのかかわり方を変えることが可能だったのではないでしょうか。学校として「家族のかかわりかたをどのように指導援助していくべきか」は重要な問題であり,今後の大きな課題になると思います。次回では,この「家族への指導援助」へ視点をあてた事例を予定しています。
参考文献
「不登校の児童生徒に対する指導援助のために」その1,その2 福島県教育センター
「登校拒否 一その心理と治療一」小泉英二 学事出版社
「続登校拒否 一治療と再検討一」小泉英二 学事出版社
「登校拒否にどう対するか」小泉.向後,相本,相馬 学事出版社