福島県教育センター所報ふくしま No.93(H01/1989.11) -001/038page

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巻頭言

学校経営部長三津間安宏

個性重視の教育を考える


学校経営部長   三 津 間 安 宏


「個性重視の教育」 ,これは臨教審がその4原則(個人の尊厳・個性の尊重・自由自律・自己責任)を打ち出してから,教課審に,そして今回の学習指導要領改訂の基本方針に一貫して流れたこれからの教育の重点課題の一つであ。

そのためか,現在,各教育雑誌にはその特集記事が多い。私も理解しようと勉強してみるのだが,正直のところ混乱してしまう。(個性と個人差,個別化と個性化,個を生かす・育てる・応じる,学力向上と個性教育・基礎基本の徹底と個性の伸長・自己学習カと教育の人間化…。)この混乱は,やがて校長会・教頭会・小中教研等に研究主題としてとりあげられ推進されるときに,一度は通らねばならぬ混乱でもあろうか…。論ぜられる背景や趣旨はいずれもうなづけるものである。しかし,私たち教育現場で,新学習指導要領実施を迎えたこの時期に,共通に理解し研究実践に移していかなければならぬ視点は 「現状の授業(一せい授業)の中でどう具体化することなのか、どう改善充実を図っていくか」、このことに焦点をしぽった論の展開であり,研究実践でなければなるまい。

現状から一歩前進のところでこのことを考えたとき,次の3点が浮かぶ。 その一つは,「授業における個別化をもっと追究していくぺきではないか」 ということである。いままでも個々の基礎学力の到達度の差,学習のし方,スピードの差等を縮め・なくす指導には努力してきた。それにとどまらず,個々の興味関心・既有経験・わかり方の差等に一層注目し,指導法を多様化し一般化していく。そうしたことに指導の幅を広げていきたい。それが一せい授業の中で「個を生かす」ということになろうと考えられるからである。 二つめは「授業における関心・態度面の育成重視」 である。このことはすでに情意的学力として指導要録の評価の観点にも導入されている。どんなに豊富な知識・技能を持っていてもこの面が育てられていかなければ個性は発露しない。既有の知識・技能を活用し,自ら新しい学習にとりくむ意欲や学び方(自己教育力)を育てること(評価も含めて)。このことが「個を育てる」につながることは確かであろうし,現状においてはまだまだのような気もするからである。 三つめは, このことが最も大変な課題かもしれない。それは 「教師のめざすよい子像の発想の転換」 である。

先日,本明寛氏(早稲田大学教授・心理学)の講演文「創造性と個性」を読んだ。一日本では,几帳面で従順で,自己主張をせず黙々と働く人をまじめですばらしい人間=「よい子」と評価する傾向にあるが,アメリカではそういう人間をスクエアヘッド(丸みのない四角な頭の人,感受性の硬直した人,新しいアイディアを出す柔軟な頭と個性のない役に立たない人)と評されるという。つまり「よい子」は 「個性豊かな子」 であり,その内容は「好奇心が強くものごとを型通りに見ない子,自分の好みを大切にし自己主張する子,現実の改善に自ら挑戦する子」だと説明し,これが今後の日本の社会に求められる人間像だと述べている。一建前としてではなく,長い日本の教育伝統をふまえた現状からみれば,まさに教師の子どもを見る目の発想の転換をせまられたことにならないか。(案外,個性化への対応は,この辺から始めなければならないような気もするのだが,どうであろうか。)

何はともあれ「個性重視の教育」は,新学習指導要領に具体的に提示され実施時期に入る。課題は大きい。スローガンにしてはならないと思う。そうしないためにも,現状をよくみつめ,そこから出発した着実なる研究実践を積み上げていきたいと考えるのである。


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