福島県教育センター所報ふくしま No.95(H02/1990.6) -010/038page

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所員個人研究 _(教育相談)

「思春期境界例」への対応と指導

教育相談部  赤 塚 公 生

1. はじめに

 思春期は,「第二の誕生期」とも言われる。自らの存在に目覚めて,個としての自立を果たそうとしながら,一方では内部的,外部的要因から様々な「思春期の病理」を発症させる例も少なくない。

 中でも「思春期境界例」は,最も分かりにくく治療も困難とされている。

 以下に考察するものは,昨年度公立高校で見られた女子生徒の事例である。指導援助の実際は,電話によるスーパーバイズのもと,学級担任と養護教諭によって主として学校内でなされた。

2. 「思春期境界例」とは

 「思春期境界例」は,「青年期境界例」の思春期における発症である。アメリカの精神医学界では「境界性人格障害」として分類しており,その診断基準は「DSM一III一R」の中に示されている。その内容の中心は「分裂,見捨てられ抑うつ,操作,行動化」の4つであり,わが国においてもほぼ同様の基準で診断されている。

 「分裂」は,良い自分と悪い自分との分離として表れる。対人関係の豹変や自己万能感と極端な自己嫌悪など気まぐれで感情易変性を示す。「見捨てられ抑うつ」は,文字どおり見捨てられることへの恐怖であ り,特定の人物への極端な「しがみつき」となって表れることが多い。「操作」は,周囲の人間関係に対する対人操作である。周囲を振り回そうとする。「行動化」は,これらの結果としての様々な問題行動である。楽しそうにしていたかと思うと突然激しい怒りを示したり,浪費,性的逸脱,万引,衝動的な自殺企図などを試みる場合もある。問題は,生育歴においてほとんど問題がないいわゆる“いい子"が,思春期の初期において突然このような問題行動を起こすことである。

 原因として現在仮説的に唱えられていることは,J.マスターソンの「(幼年期における)母親のリビドー的不貢献によって起こる分離・個体化の失敗」という表現に象徴化される。分かりやすく言えば,3歳までの生育期に(主として)母親の十分な愛情を受けたか否かということが,後の思春期における自立に大きな影響を与えるということである。

3. 事例

A子は,幼少期より手のかからない“いい子"だった。わがままで頑固な一面もあったが,成績もよく特に問題はなかった。

中学時代も成績は上位にあって安定していたが,友人関係が少し不安定であり,部活動を転々と変えるような面も見られた。


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