福島県教育センター所報ふくしま No.95(H02/1990.6) -012/038page
学級担任 ・優しい父性。受容し支持すると同時に,良いこと悪いこと,どうすべきか,具体的な指導の中心。
・クラス内の人間関係の調整。
・養護教諭とともに家庭への指導の配慮。
・優しくて,強い人。自分の保護者であると同時に,いけないこと,我慢すべきことを諭したり,良い点を認めてほめてくれる人。絶対に自分を見捨てることのない人。
・クラスの中でも自分の存在に注意を払い,居やすくし てくれる人
養護教諭 ・受容し,甘えもある程度まで許容する母親。
・同時に,率直に本音で語り,自由さをだす。
・母親に対する支持と相談。
・自由に本音で話せそうな人。だめなことは優しく諭してくれる。
・わがままな態度をとっても頭から拒絶したりせず,話をきいてくれる人
・家族,特に母親が相談しやすい人。
相談部員 ・来所に際して、もしくは電話によるスーパーバイズ。 /
指導の実際に当たっては,特に,A子の態度の豹変(分裂)に動じない,うつ状態(見捨てられ抑うつ)に安心感を与え,振り回し(操作),問題行動(行動化)に対しては根気よく「受容しつつ諭していくこと」に留意した。
その結果,指導上の多くの困難や問題はあったが,9月までの半年間は学校生活への適応が図られ,小康状態が続いたものと評価される。しかし10月より再び「行動化」が激しくなり,家出と家庭内暴力事件の後,12月には2度目の休学届けを出すに至った。
4. まとめ
この事例は,「思春期境界例」について学校内で意図的な指導が試みられた数少ない事例の一つである。反省点として,以下 のことが新,旧担任,養護教諭からあげられた。
1.「病理」についての理解不足から,なかなか自信のある態度がとれなかった。A子はその自信のなさに気づいていたように思われる。
2.指導体制としての“ボーダーライン・シフト"は有効であると思われるが,実際にどの程度までA子の心に届いていたのか,指導者の力量も含めて疑問である。
3.「受容しつつ諭すこと」_は,しなやかなコンフロンテーションであり,効果的だったと思われる。しかし,ともすれば両親・教師とも性急に結果を求めがちであり,忍耐を欠いた。
厳しい自己反省であるが,思春期における精神的問題の多くは,教育的なアプローチなしには,解決不能なものが少なくない。学校での生活場面における地道な指導は,もしある程度の専門的知識の裏付けを伴うことができれば,関係機関,医師との適切な連携のもとに良き治療的アプローチに変わり得るものである。
結果として12月には2度目の休学となったものの,担任と養護教諭の努力はA子の心に何らかの変化の兆しを与えているのではないだろうか。それは,思春期のあやうさのなかで思い惑う一つの魂への,最も誠実な人間的かかわりであったと言えるのである。
※参考文献
J.マスターソン「成年期境界例の精神療法」 星和書店
市橋 秀夫 「境界人格障害の治療」日本精神病院協会
村上 靖彦編「境界例の精神病理」 弘文堂