福島県教育センター所報ふくしま No.95(H02/1990.6) -023/038page

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という思いで,頭がいっぱいになっていた。

 T先生はA男に対するあまりの理解の甘さと資料不足に気づき,これからの指導援助に焦りを感じていた。そこで,思い切ってA男の今の状態をこの会で話すことにした。

A男の理解

 その後で,「子ども理解の仕方」(表3)について確認し,A男について話し合った。

表3 子どもの理解
1. 印象的・主観的理解

子どもの内面を直感的に見抜ける。しかし.先入観や利害の感情に左右されやすい。

2. 科学的・客観的理解

各種の検査や調査によって多面的.客観的に資料収集できる。なお心理的距離(冷静さ)を保つ必要性があるため,相手が構えてしまいがちである。

3. 人間的・共感的理解

相手の身になって一人ひとりの内面の気持ちや思いに迫っていくことができる。しかし,担任だけでは大変なため.共通理解に立った学校体制が必要。

子ども理解の方法
子ども理解の方法


【資料の収集】

<本人>  学力は中の上位にあたる(4年時)幼児期(4〜5才)に夜尿が目立つ。小さい頃から「手の掛からない良い子」。自分と似たおとなしい子と家の中で遊ぷ。真面目で努力する子。

<父>  真面目な会社員。本人が5〜6才の時単身赴任。頑固で怒ると恐い。娘とはよく遊ぷが,本人との遊びは少ない。

<母>  専業主婦で子どものことになると口うるさい。近所との付き合いは少ない。

<妹>  小学3年生。我がままで甘えん坊。活発な性格。

【診 断】

 小さい頃から両親の愛情を十分に得られず,両親との会話も少なく,おとなしい性格が形成された。また,室内での遊びが多く,同級生と遊ぷ経験も少なかった。そのため,協調性に欠け,上手な人間関係が取れない。さらに,自己中心的で,自分の思うようにいかないと閉じ込もってしまう。

 やがて学年が進むにしたがって自分の思うことが言えないまま人間関係につまずきを感じ,強い焦りと不安を抱くようになり,学校に行くのがつらく不登校になった。

【指導援助の方向性】

・今までは,問題行動を持つ子どもを「やっかい者」「不適応児童」等ととらえがちだったが「A男は「不登校」という形で,自分の発達課題である自発性・自立性を獲得しようとしているのだ」ととらえ,登校刺激を与えないで,不登校状態を指導・援助していく中で,自我の発達を図っていく。

・A男は自尊感情をなくし,自分の行動に自信をなくしているために,自分の存在価値を見いだせないでいる。そこで,認め,ほめるという肯定的かかわりで,自発的なエネルギーを高めていく。

段階的な指導援助

心の解放を   T先生はA男が身体的症状を訴えているということで,まずは登校刺激を一切やめ,無理して登校する必要のないことを本人や親に電話で伝えた。


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