福島県教育センター所報ふくしま No.95(H02/1990.6) -024/038page

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 母親は自分の子どもが登校しないことで,傷つき,防衛的になっている。そこで,親の立場を理解し「育てかたが悪かった」などとは非難しないで,よい聴き手になってやった。徐々に,母親の気持ちは落ち着き,A男の小さい頃の様子や自分の養育態度について振り返るようになった。

ラポール(信頼関係)の形成を   休み始めてから2週間後,子どもの気持ちは楽になり,身体的症状の訴えがなくなってきた。T先生は家庭訪問をし,本人の好きな野球の話や自分の子どもの頃の話などをした。(訪問できないときは手紙でA男と心の交流を図った)「学校から見放された」という疎外感や,「自分は学校を休んでいる」という罪意識を抱かせないためにも,この訪問は効果的であった。

 なお,家庭訪問が登校刺激にならないよう,くれぐれも気を付けた。

子どもの自立心を   夏休み明け,本人の表情も明るくなり,抵抗なく会えるようになったので,連絡プリントや問題プリントなどを直接本人に届けることにした。さらに,母親が子どもの心の疲れを取る役割を,一方,家族の柱としての父親がたくましさを持って子どもとの接触を深めるようになってから,生活面での自立心が育ってきた。

適度な刺激を   学校のことや勉強のことを言っても明るく話せるようになった。朝,挨拶だけでも交わせるように級友に寄ってもらった。ただし,子どもの心の状態が「登校できる」準備状態になったと観察で きても,先生が引っ張り出すことは避け,親の力で押し出すようにお願いした。

 そして,10月下旬,A男にとって最も安らげる健康学級で,2時間程の学校生活が出来るようになってきた。

予防的かかわり

 T先生は今回の指導援助から予防的なかかわりの重要性を痛感し,次のような対応を心がけることにした。

教師の姿勢   「この子にもきっと良いところがある」「必ず頑張り通せる子どもだ」という,子どもを信じる心を大切にしていく。

子どもの理解   問題点に早く気づくためにも「今日は表情が暗いが,何か心配事でもあるのかな」「あの子は小さい頃十分甘えられなかった。可愛そうな子なんだ」などの,心理的な状態や発達過程の理解に努める。

望ましい人間関係   コミュニケーションの場を多く持ち,相互理解の機会をつくる。それによって,学級に相互支持的な雰囲気を育てる。

研修会への積極的参加   研修を深めることによって,適切な指導援助のあり方と「ひょっとするといじめを起こすのでは」といった予測される問題行動の予防意識を高めていく。

【参考文献】
◇生徒指導・教育相談指導資料1.2.3.   福島県教育センター
◇登校拒否児の発見と援助・指導     (財)才能開発教育研究財団
◇教育心理 VOL.38 No4         日本文化科学社

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