福島県教育センター所報ふくしま No.96(H02/1990.8) -002/038page
特別寄稿(論説)
今、なぜ造形遊びか
福島大学教育学部部長 佐久間 敬
はじめに
「造形的な遊び」が、表現領域の一項目として位置づけられるようになってから、既に10数年になろうとしている。しかも今回の学習指導要領の改訂では、その名称も「造形的な遊び」が「造形遊び」と改称され、さらにその対象学年が、1・2年だけであったのが3・4年にまで拡大されてきている。工作教育の重視、鑑賞教育の見直しなど、今回の改訂の特色がいくつか挙げられるが、その中でも特色的(いわゆる改訂の目玉)と言えるのがこの「造形遊び」こかかわる内容の充実・拡大である。
さて、教育現場ではどうであろうか。かより積極的でユニークな実践への取り組みま見られるのだが、全体的に見渡すと、その悩みは多く必ずしも定着してきているとは言い難い。「今、なぜ造形遊びなのか」を初め、「教師主導でない授業の展開をどうするか」 「押さえるべき内容は何か、それをどこでどう学習させるのか」 「評価はどうするのか」等々、未解決の課題も多様にあり、真剣に取り組めば取り組む程にその悩みはむしろ大きくなるばかりであるとも言える。
そこでここでは、それらの中心的課題とも言える「今、なぜ造形遊びなのか」にかかわって述べてみたい。それが明らかになれば、他の課題の解決への方向が見えてくるはずだからである。1.造形遊び誕生の背景-直接的要因
造形遊び誕生の背景にあるものは多層にわたって挙げられる。まず、その直接的なきっかけとなったこととして挙げておかなければならないのは、これまでの造形教育のあり方に対する総括、反省点にあったということである。造形活動へ取り組む子どもたちの姿に、本来の生気が見られなくなっているという現状が強く指摘され、その要因として挙げられたのが、3っの指導上の問題である。1.(丸囲み)図画工作科の指導内容過多の問題
造形文化の伝承のための指導内容が多く、その結果子どもがじっくり取り組めなくなっていること。2.(丸囲み)作品主義やそのための指導過多の問題作品づくりのために必要以上の技術・技法指導が、子どもたちを追い込む結果となっていること。
3(丸囲み).子どもの発達特性を無視した指導の問題
1.(丸囲み)、2.(丸囲み)の結果、子どもの実態に基づく指導が建て前だけになりがちなこと。以上まとめて言えば、児童主体の創造的な造形活動ができる条件が保障されていなかったのではないかという現状分析である。