福島県教育センター所報ふくしま No.96(H02/1990.8) -017/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

随想

夏休みで思い出すこと


学校経営部長 八 巻 勝 恵


 夏休みも終わり、また、鞄を背に元気に登校する子ども達の姿が見られるようになった。担任した児童の「休みの過ごし方」で心に残ること、二つ紹介してみたい。


○ 夏休みを間近にして一人の女の子が、私のところに来て「先生、この夏休みは本を一杯読みたいんです。図書の貸し出し日以外に学校に来て本を見せてもらっていいですか。」という。私も当時は学校管理面のことなど深く考えずに「先生方に話しておいてあげるから、日直の先生の許しを得て図書室を利用させてもらいなさい。」というようなことを言った。
その子は大変喜んで、休みになると毎日の様に学校に来て、図書室や教室で一人で読書をし、時には家にも本を貸りて帰ったりした。
こんなふうにして、その子は、5年6年と長期休みには図書室を利用し、名作といわれる文学物をほとんど読んでしまったのである。
いかに小さな学校で図書数が少なかったとはいえ、それは大変な努力であったと思う。(その子にとっては楽しみであったのかも知れないが)
私も休み後、折々にこのことを組の子ども達に何度か話した。そのせいでもないであろうが、子ども達の図書室の利用が増えたような記憶が残っている。

○ その子は、6年男子で水泳が得意でなく顔を水につけるのがやっとであった。(組で泳げない子は3〜4名だった)
その子は、私に「僕、この休みで必ず泳げるように頑張るんだ。」と言って休みを迎えた。どれだけ頑張れるか、私も励ましてはやったが疑問に思う心がなかった訳ではない。事実、その子の姿を学校のプールで見ることはなかった。
ところが、夏休み後の始めての水泳でその子は級友と一緒にクロールで25mを見事に泳ぎ切ったのである。級友から自然に祝福の拍手が起こった。当人の満足そうな笑顔があったのは勿論である。
後で聞いてみると、その子は自分の決心を親に話し、毎日といっていい程市民プールに通い、大学生のプライベートレッスンを受けたとの事であった。


 長期の休みでなければできない継続的なことを・・・と父母や子どもに指導するが、自分で自分の目あてを見つけ、その目あてに向かって努力し、成果を得ることの素晴らしさを、組の子ども達だけでなく私もまた、時に教えられたのである。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。