福島県教育センター所報ふくしま No.106(H05/1993.3) -001/038page

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佐藤輝夫

巻 頭 言

授 業 と 個 性

科学技術教育部長  佐 藤 輝 夫



 新任のころ,非常に長い時間をかけて教材研究をした。自信を持って,授業に臨む。しかし,授業は思うように進んでくれない。生徒が教師である私の発問に対して,どのように反応しているのかを的確に把握できなかったのだから当然である。
 ところで,多くの学校では,一人の教師が40人以上の生徒と一緒に授業を成り立たせている。吟味された教材で,生徒が持っている知識や経験についての調査を十分に行い,万全を期する指導案による授業であったとしても,授業時間は50分である。単純に考えれば教師が生徒一人と接する時間は,1分ほどしかないことになる。そのような状況の中で,教師が生徒一人一人に目を向け,与えた教材に生徒が今,何を考え,何に悩み,何を求めているのかを的確にとらえ,どのように反応し,いかに思考しているのかを把握していくことは,思うほどやさしいものではない。しかも生徒の学力は,中学校・高校と進むに伴い,相当の差を生じてきている。それを仮に生徒一人一人の個性と呼ぶとすれば,40人いれば40通りの個性が存在する。その個性が集まって,クラスを形成する。おのずとクラスの雰囲気ができ上がる。まったく同じ教材,指導案で幾つかのクラスで授業を実施したとしても,同じ授業の流れにはならない。それは,授業が生徒の持つ個性とそれを指導する側の個性とのぶつかり合いだからである。生徒の個性を重視せず,教師の個性のみで授業をすれぱ,同一の授業を何回もすることができよう。けれどそれは,教師中心の一方的授業となり,生徒の主体的学習は成立しにくいということになる。
 ナフィールド理科の冒頭に,「子どもが最も興味・関心をもつ学習内容は,自分の持った疑問であり,次は友人の持った疑問であって,教師の与えた問題ではない」という名言がある。このことから,授業の中で"一人一人の子どもに教師がどのように仕掛ければ,子どもが学習内容を「自分の課題」と受け止め,真剣な主体的学習が続けることができるのか"が大切な要素であることがわかる。
 授業を成立させるためには,教材研究等の事前の準備を十分することはもちろんであるが,さらに授業の実施段階で,生徒一人一人がどのように反応し,今どのような思考過程にいるのかを多面的に評価し,指導にフィードバックさせていく手だてをしていくことが個性を伸ぱす道であると考えている。


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