福島県教育センター所報ふくしま No.106(H05/1993.3) -017/038page

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随 想

沈 黙 は 金 か 銀 か

 学習指導係長  星 和久

昔からのことわざの一つに「雄弁は銀,沈黙は金」がある。成語林によると,「弁舌さわやかにまくしたてるより,黙っているほうが勝るということ。」とあるが,果たして真相はどうなのだろうかと自問自答することがある。

 過日,バスケットボールの蕃判仲間で,かつて国際蕃判員を目指して競い合った友人に会った。私は蕃判から離れてしまったが,この友人は今日の我が国を代表する国際審判員の1人になった。毎年実施された指名強化合宿では,隣り合わせになることが多かったが,お互いが地方出身であることもあり,討論の場で発言したり,質問したりする回数が少なく,印象面で損をすることがあった。
 当時,私たちは人より進んで積極的に発言する勇気を持ち,自分を表に出せることが,国原蕃判員として大切な資質の一つであり,このことは大きな大会で自分が審判するゲームをきちんと掌握し,円滑に逗営するための絶対必要条件であるという指導を受けていた。

 また,先日の講座において,講師である東京大学の鳥海靖先生は最後に質問を求めたが,90名の研修生からはなかなか出なかった。そこで先生は,ご自身の体験から「欧米の大学では,講義の最後には必ず多くの学生から質問がある。質問がないということは,自分たちの能力の低さを証明することである。」と話された。結局2人から質問があったが,中には質問したかったが,大人数のためその勇気を発揮できずに終わってしまった方がいたのではないかとも思える。

 新しい学習指導要領が,いよいよ本年4月からは中学校でも全面実施されるが,その中で強調されている学力の一つに,表現力がある。学び獲得していく過程では,考え,判断し,表現する力が必要である。表現力は,口で表したり,書いて表したりした後,行動に移さなければならない。子どもたちは,このような過程を通して知識を得,技能を身に付けていく。表現力では,積極的に発言したり,質問する態度も大切な構成要素であると言われている。とすれぱ,やはり沈黙は決して金ではなく,銀であり,場合によってはそれ以下なのだろうかと思ってしまうのである。


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