福島県教育センター所報ふくしま No.107(H05/1993.6) -004/038page

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係を断とうとした事例も報告されています。また,スチューデント・アパシーといわれる大学生の「無気力症状群」につきましては,専門家による多くの研究がありますが,その主要な原因は未だに明らかではありません。アパシーは女子学生より男子学生に多発し,意欲の減退が選択的で,アルバイトや趣味的な活動には積極的ですが学業には意欲を示さないという特徴があります。これからの学生相談の方向として,治療モデルにこだわった心理療法による,学生相談活動の限界を指摘する声もあります。学生相談機能として,教育的・開発的モデルの確立が必要と思われますが,このような相談機能の視点の転換怯広く小・中・高等学校を含めた教育相談の課題として取りあげられるべきでありましょう。

3.目標指向と役割指向

 10数年前のことですカ、一人の女子留学生から「私カ研究室を出て下宿に帰ろうとしますと,なぜ日本人の学生は私に『ガンバッテ』という言葉をいうのですか?私は『サヨウナラ』といいますが,日本人の友だちは『サヨウナラ』といいません。なぜですか?」と質問されたことがあります。「ガンバッテ!」という言葉は「良い研究をしなさい」という意味にとれるので,彼女はつらくなるというのです。頑張るとは我を張ることといわれますが,辞書には「我意を張り通す,どこまでも忍耐してつとめる」とありますように,自分の思うことを通そうとするわけですから,明らかに目標指向的であると考えられます。
 目標に到達しない生徒に対して「落ちこぼれ・劣等生」等というラベルを貼る仕組みは,「ゴール(目標)指向」といわれますが,グラッサー(同一性社会,1972.)は「学校は,生徒の求めているものを与えていない」と述べ学校教育がゴール(目標)指向からロール(役割)指向へ転換し,学校が知識を与える場から,<関わり合いと協力> を中心とした<役割遂行> の場に変わるべきであると強調しています。グラッサーは,われわれは金銭や地位,名誉等という自分中心の目標指向を改め,ひとりひとりが自分の考贈1を「いま,ここで十分に果たそう」とする役割志向に変えるべきであり,生存のための目標社会から,役割優先の同」性社会への転換カ、20世紀後半の世界の動きであると指摘しています。
 目標優先の教育から,役割優先の教育への転換が可能であれば人と人との関わりあいや協力が最も大切にされる学校教育が実現するものと思われます。東京都と神奈川県の小中学生に実施した専門家の調査によりますと,親友がいない(30%),学校は居心地がよくない(50%),時々死にたいと思う(20%),不登校願望がある(40%)という結果が出されています。また別の中学生を対象とした調査では,不登校生徒と不登校願望をもつ生徒は,約70%という高率を示しています。平成3年度に30日以上欠席した小学生は1万2千人,中学生は5万4千人といわれ,不登校児は急増の傾向を示しています。不登校生徒の指導で周囲の大人は,不登校生徒に登校を強制せずに,学校に行けない生徒が<やりたいこと> を援助することが大切であるといわれます。つまり登校させるという目標指向で生徒を指導するのではなく,その生徒がやりたいと思う<役割> を果すよう援助することが肝要なのです。心の傷ついた子どもに必要な大人は,決して力強い指導者ではなく,心暖まる援助者であると思います。
 日常生活の束縛を取り除き,自発的に役割を演ずることによって,人間関係を新しく見直そうとする技法をロール・プレイング(役割演技)といいます(外林大作,1971.)。筆者は,昭和25年以来児童・生徒・学生・教師・母親等と共に,ロール・プレイングの実践を続けて来ました。道徳指導の方法(文部省,1958.)として,役割演技が取り入れられたにも関わらず,教育の現場で役割演技法は高い評価が与えられなかったと思われます。道徳指導特別活動,教育相談の技法として,学校の現場でロール・プレイングが実施されることを期待したいと考えます。
(所長・千葉ロールプレイング研究会会長)


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