福島県教育センター所報ふくしま No.107(H05/1993.6) -017/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

随 想

今, 求 め ら れ る も の

 学習指導部長  赤 塚 幹 典

 今の世の中,手に入れたいと思えぱ何でもあるし,何でも手軽に求めることができる。余暇もどんどん増え,お金さえあればほとんどのことが満たされるようになった。不自由さとか,我慢という言葉は一切無縁な言葉になりつつある。自分の気に入らないものがあれぱ疎外していればいいし,いやになったらさっさと逃げる。何をしても許されるし,世の中は常に自分を中心に動いてくれる。なんと恵まれた平和な世の中なんだろう。しかし,人間あまりにも恵まれた生活を続けていると逆に何か物足りなさや,空しささえ感じてしまうようだ。人間とは何と身勝手でわがままな動物なのであろうか。
 先日,東京に新しく演劇学校が出来たがその経営者の話が印象に残っている。演劇学校というのは芝居をする人を養成する学校で,自己表現とか自己創造の場であるということから,今の若者たちに結構人気がある。ただし,普通の専門学校と違って,卒業して役者になりたいと思っても特に資格が与えられるわけでもなく実力がものをいう世界である。でも生徒募集をすると,珍しさが手伝って結構多くの応募者が集まるらしいが,すぐやめていってしまうということである。経営者は今度もそんなことを予想し,中途半端な人間を養成するよりは,本当に優れた人材を養成しようと考え,指導内容を精選し,極めて厳しい練習方法を取り入れ,遵日血の出るような激しい特訓をしたそうだ。ところが予想に反して今のところ誰一人やめて行く者がいないということである。最初は経営者も不思議に思ったらしい。なぜやめていかないのか,その原因はどこにあるのか。まもなく経営者はこんなことに気づいたと言っていた。「今の若者たちは厳しさに飢えているのではないか」と。
 そういえば最近,変に物分かりの良すぎる親が増えてきているらしい。すぐに子供と妥協してしまう。例えぱ,ある共稼ぎの夫婦は「日頃子供に寂しい思いをさせているのでね」と言って子供の欲しがるものは何でも与え,子供のストレス解消をはかり,自分も満足しようとしているとのことである。子供たちは何でも不自由なく手に入ることに満足しているのだろうか。子供たちはもっと別なものを望んでいるのではなかろうか。子供たちが真に求めているものは何なのか,それが何であるか,今一番考えなけれぱならない時だと思うが。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。