福島県教育センター所報ふくしま No.108(H05/1993.8) -008/038page
なく,他人まかせや合理化することですませてしまうタイプである。依存心が強く自立的ではない。
2. SCT実施結果
女性性の否認も見られたり,姉への絶大な信頼感と一体化が見られるなど,矛盾している部分もあり,「アイデンティティの確立」はまだまだのようである。
3. 指導の経過
自分に自信がなく依存的であり,自分で問題解決に取り組めないことが,身体症状となっていると考えられる。自己イメージを肯定的に変えさせるような働きかけを多くした。
4. 事後PFスタディ実施結果と考察
自分の問題として取り組むことができるようになり,問題解決欲求が出てきた。一方,我慢する反応も見られ,自分の気持ちを表明できるようにもなってきた。自我の成長が認められるといえよう。同時に「不定愁訴」においても,軽減している。
V 実践のまとめと考察
1.「不定愁訴」を持っ高校生が高い割合で存在している
身体症状を持つ生徒は,「学校不適応」を起こす予備軍とも考えられる。
2.「不定愁訴」を持っ生徒には身体症状の心理的要因が認められる
心理検査の結果から,一人一人問題点は異なるが「社会適応度や自我の未成熟」「障害と真正面から取り組めない」「忍耐力が欠ける」「依存心が高い」などが見られた。全体として,自我が未成熟でストレスに対する耐性が弱いことが指摘される。
3. 心理面での指導援助が身体症状の軽減につながる
F子には自我の成長が見られ身体症状も減少しており,E子には自我同一性の混乱が見られ身体症状が変化していない。身体症状に対して,心理面での指導援助の重要性を示すものである。一方,A夫にも自我同一性の混乱が見られたが,一過性のもので,その後,生活面でも落ち着きを見せ始め,それと同時に身体症状も減少した。
これらのことから,身体症状を持つ生徒に対しては,心理面での指導援助が必要であり有効であると言えよう。
心理面での指導援助としては,受容と支持を中心に行い,自己決定の機会を与え,抑圧された内面を表現させるようなかかわりを心がけたことが,改善に結びついた。
このような方向性こそが養護教諭の行う教育相談の在り方の中心になるものだと考えたい。
VI 今後の課題
今回は,「不定愁訴」を持つ生徒を研究対象にし,養護教諭の教育相談を生かした指導援助の方向性について模索してきた。今後は,学校全体での協力体制の在り方を考えていくことも重要な方向性となろう。
また,思春期の発達課題である「アイデンティティ」の拡散が認められる生徒がいた。今後,高校生に対する教育相談の中核に据えて考えるべき重要な観点であろう。