福島県教育センター所報ふくしま No.108(H05/1993.8) -017/038page
随 想
子 供 の 「 援 助 者 」と し て 教育相談係長 水 谷 由 克
「もしもし,相談をお願いしたいのですが。 ・・・・ 実は,中3の息子がしばらく学校を休んでいます。どうしたらよいでしょうか。 ・・・・・ 」
午前8時30分。電話相談受付開始と同時に母親からの相談が入ってきました。電話の様子では,この母親は子供のことで悩み,きっと昨夜は一睡もできなかったに違いありません。電話ではまず,母親の気持ちを支えてやりながら子供の様子を聴き,当面の対応についてアドバイスし,後日,教育相談に来所することを勧めました。
数日後,母親と共に相談に訪れたA男は,友人とのことや成績が思わしくないことで悩み,1ケ月ほど学校を休んでいる子供でした。面接はA男を友人関係や成績の縛りから解いてやることと,自分がどうなりたいかを相談者と一緒に考えることを中心に進めました。数回の面接の結果,A男は自分がどうなりたいのかを考えることができるようになり,さらに数回の面接で,彼は以前の元気を取り戻し,再び登校できるようになりました。勿論,この問題の改善には,家庭や学校からの協力があったことは言うまでもありません。
数年前から,教育相談に関する研修の機会が増え,教育相談的な対応が教師の間に旨実に広まりつつあります。そして,その成果も徐々に上がってきていると考えられます。しかし,教師が単に教育相談に関する知識や技術を身に付けるだけでは,子供の「援助者」として,何か片手落ちのような気がしてなりません。心に悩みを持つ子供が,自らその問題を解決し,意欲的に生きていこうとする気持ちを育んでいくために,教師は「指導者」としての枠を取り払った一人の「人間」として,子供と共に考え,語り合える存在であることが必要なのではないかと考えます。
友人とのトラブルから学校に行けなくなった子供。家庭でのストレスを無言のまま訴える子供。教師との関係がうまくいかずに学校生活に悩みを持っている子供。これらの子供たちが,教育相談を通して自分を語り,自分を見つめ,相談者の「人間」に触れながら,再び心の健康を取り戻していくという変容からは,子供の持っている遅しい生命力が伝わってくると同時に,大きな感動を覚えるものです。
日々の教育相談の中で,子供を生かすとはどのようなことか,また,そのために教師はどのように役立っことができるかを考えるとき,まずその基盤として,「援助者」としての教師と子供との間に,共に考え,語り合える関係を樹立することが,欠かせないことであると確信するものです。