福島県教育センター所報ふくしま No.109(H05/1993.11) -002/038page
特別寄稿(論説)
あ る 合 宿 研 修 会 と そ こ で 気 づ か さ れ た こ と
−ピ ン チ を チ ャ ン ス に −
東北大学教育学部教授(教育行政学担当) 木 村 力 雄
年甲斐もなく夏が近づくと落ち着かなくなる。どうやら毎年7月末に一週間にわたり開かれる東北大学教育学部付属大学教育開放センター主催の「教育指導者講座」のためらしい。最近特にそれが私にとっての「自己点検」「自己評価」の場に思われてきたからである。この講座は来年で丁度30回目になる。受講者は宮城県のベテランの先生方で, 例年宮城県教育委員会の協力により県内の小中高の教務主任,学年主任,研究主任,生徒指導主事,保健主事等約60数名が参加する。初日は教育学部で,翌日からは大学の農学部付属農場内の川渡共同セミナーセンターで行われる。同センターは大学紛争期にその真因を問う過程で設けられ,温泉で知られる鳴子町にあり,世の喧騒から隔離され,緑に包まれてある。講座の内容は「昼の部」(講義)と「夜の部」(ワークショップ)とからなっている。「昼の部」は私の所属する教育行政学・学校管理・教育内容専攻の教官及び教育学部の他講座の教官による講義と、科学技術の最先端で顕著な業績を挙げた著名な教授による特別講義とからなっている。「夜の部」では,予め参加される先生方に提出していただく「学校教育上の問題」のレポートをふまえ,先生方に徹底討論してもらう。スピリット(お酒)を入れての話し合いは深更に及び,ホンネをぶつけあっての討論は「汚魂の洗濯」になるらしく,講座も終わりに近づくにつれ,さわやかな朝食前のひとときには,小鳥の声に交じり美しいコーラスが流れることも稀ではない。
この講座の生みの親は,学校管理講座の初代教授で付属の幼・小・中各学校の校長を兼務していた皇晃之教授である。教授には,宮城教育大学の東北大学からの分離独立に際し付属諸学校も宮教大に移管され,そのことで東北大学教育学部の教育研究が教育実践から遊離し「天上教育学」になり,「教育学研究益々盛んになり教育衰退する」といったことにならないように,との願いがあった。学部の創設期に実施されていた教育長,指導主事,校長の指導三職と社会教育指導者の養成を期したIFEL(Institute For Educational Leadership)にちなんでそれは命名され,その精神にたち帰ろうとする願いもあった。当初「夜の部」はなく講義が中心であった。しかしそれだけでは講座創設の狙いはかなえられないこと。大学紛争の影響が高・中に波及し,諸学校の荒廃もそれと無縁ではないこと。学校から宿直室がなくなり,車社会になり,時に酒を飲みながらのインフォーマルな構内での教育談義も少なくなり,各学校毎に蓄積継承されてきた土着の貴重なノーハウの伝承も又途絶えがちになっていたこと。等々が吟味検討されて,「夜の部」は付加された。